宮澤賢治「なめとこ山の熊」について8~まとめ

○短編だが、さまざまなことがらが述べられた物語だ。
自然への畏敬の念。家族愛。親子の交流。フェアートレードの大切さ。他者のための自己犠牲。他者への共感・リスペクト。死者への弔い。想像することの大切さ。大切にしなければならないことと、変えなければならないこと。命の尊さ。

〇小十郎亡き後の婆さまと子供らはその後どうなったか?
それはこの「なめとこ山の熊」の物語からは外れる事柄になるのだろう。つまり、評論としてはそこを考えなくてもいいということ。
でも、もし想像するとすれば、婆さまと子供らに生きるすべはない。今まで小十郎がひとりで家族全員を養い、保護してきたからだ。だから、「小十郎の死=婆さまと子供らの死」ということになる。そこには厳しい現実がある。今までは熊が殺されてきた。今度は人間が死ぬ番だ。ということ。これは語弊がある表現かもしれないが、そうしないと(そうならないと)、「三すくみ」が完成しない。

下に再度、なめとこ山の熊における三すくみを示す。
この図を眺めていると、この三角形は、自然や地球にとって、とても大切なトライアングルに思われてくる。地球には本来、唯一の勝者などいないはずなのだ。いてはいけないのだ。それなのに人間は、自然の上に立とうとし、地球を改変しては「豊か」な生活を得ようとする。しかし人間の独り勝ちはありえない。必ず破綻が来る。
そうしていま、破綻はすでに来ている。
この夏の高温は異常だった。地球温暖化はすでに極限を迎えようとしている。だがそれに人は気づかない。まだ大丈夫とたかをくくっている。冷房を使って、その場をしのげばいいと思っている。根本的対策は、すべて先送りだ。地球の対応力・忍耐力を示すコップの水は、すでに溢れだした。

【「なめとこ山の熊」における三すくみの崩壊】

地球温暖化や地球環境の保全の対策を本気になって打とうとしない人間は、いま、この図の一番下層にある虐げられた存在から、復讐されようとしている。高温が弱者を襲う。熊たちが人間を襲う。
下にいるものがいつまでも黙っているわけはないのだ。その抑圧された力が大きいほど、その期間が長いほど、強力なバネのように激しく人間に弾き返すだろう。
小十郎とその家族は、熊によって生かされた。人間は、自然環境・地球によって生かされている。それを忘れてはいけない。目の前の被害への対策は、勿論必要だ。しかし、問題の根本への対策が、より重要だ。そこに手をつけないと、いつまでも問題は解決しないからだ。危機はすでに来ている。現実に人が傷つき亡くなっている。
本気の対策を、今すぐに行うべきだ。

【自然の摂理=円環・循環】

人間間の公正・リスペクト。自然と人間の共存。自然によって人は生きることができるという感謝。それらの当り前のことの再確認が求められている。

○では、どうすべきか~熊被害について
今年、日本各地では、どんぐりが凶作・不作となっている。だから、山にない餌を求めて熊たちは、里に下りてきている。また、近年熊の頭数が増えており、その生息域も、かつてより拡大しているため、住宅地の近くに定着している熊もいる。これらの理由が複合して、人間の近くに出没する熊の数が多くなっている。
(相次ぐクマ被害の原因は…ドングリの不作と個体数の増加 クマの殺処分は「やむを得ない」【専門家解説】 | 関西のニュース | ニュース | 関西テレビ放送 カンテレ (ktv.jp))
(川面に魚影なく、ドングリも不作 餓死と隣り合わせのヒグマたち [北海道]:朝日新聞デジタル (asahi.com))

従って、これらへの対策が必要だ。

まず、熊たちの食料であるどんぐりの凶作・不作の原因を究明し、その対策を行わなくてはならない。ところが、Webで検索しても、その答えがあまりヒットしない。ここでは、その中のひとつを、取り上げる。
「森つくりは日本蜜蜂が担っている。その日本蜜蜂が極端に減少していることがドングリ不作の原因のひとつである。西洋蜜蜂は草花を中心に蜜や花粉を集め、日本蜜蜂は木の花を好んで蜜や花粉を集める。(中略)
 さらに、クヌギやコナラの人工的な単純林により不作の年が出現するに至っている。本来の森はミスナラやカシワ、コナラやクヌギが混生していることで森の中ではクヌギが種子を付けないときはコナラやミズナラがドングリを付けることで隔年ではなく毎年ドングリの実が森の恵みになっていた。」  
(ドングリが不作の原因は - 森林文化再生 日谷農林管理会 (jimdofree.com))
以上から、自然環境や混成林の保全が必要なことがわかる。

次に、近年の熊の頭数の増加や、その生息域の拡大に関して。
先に載せた関西テレビの報道によると、一時期、熊の絶滅の恐れがあり、駆除を積極的に行わなかった。そのために頭数が増加し、一定数の計画的な駆除を行う県と、そうでない県によって、熊被害に差が出ているということだ。
人間と熊が共存するためには、様々な方策が考えられる。熊の生息域の保全と、食料となるものの育成・確保。人間と熊のそれぞれのエリアの形成・配置(柿などの熊の食料になるものの管理)。熊の頭数の管理。
このように、人間と熊との共存の方策を考え、実行しなければならない。互いが傷つかずに済むにはどうすべきかを、真剣に模索・研究し、対策をすみやかに実行する。それができるのは、人間だけだ。

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