やかまし村の馬たち
『長くつ下のピッピ』は本も読んだし、映画も観たが、同じ著者アストリッド・リンドグレーン(スウェーデン人)の『やかまし村の子どもたち』の方は、本は疎か、映画があることさえ知らなかった。先週末に初めて映画を観たのだが、のどかで牧歌的と言うのだろうか、静かな村に3軒の可愛らしい家が建ち並び、そこに住む子どもたちの日々が淡々と映し出される。時代設定が1930年代とのことで、時々大きな馬が引く荷馬車が登場し、それがなんとも言えない良い味を出している。(08:47あたりで最初に登場します。)
そんな世界を垣間見て、いいなぁ、なんて素敵なんだろう、と外に目をやれば、なんと2022年なのに、同じような風景が!!! 一番上の写真こそ、週末を過ごした友人の馬の養老牧場。赤い家が3軒並んでいる! この映画が好きで、これをモデルにご主人と作った手作りの牧場なんです。(ちなみに、映画のやかまし村の3軒の家は実在する著者の祖父母の家で、現存とのこと)
8年の時を経て
映画好きな私も、映画を観ていて「こんな家に住みたい」とか「こんな生活をしてみたい」と思うことはあっても、それを実現する一歩さえ踏み出せずに終わるのが常だ。が、私の友人はやかまし村の風景を胸に、行動に出るからすごい。まず広い土地を安く購入しようと色々と調べ、探し、見つけたのは1000坪の森? 下の写真で牧場の周りは高い木であるのがわかると思うが、友人の牧場もかつては同じ木に覆われていたのだ。おそらくこの土地を最初に見たその場に私がいても完成形は全く想像できなかったと思う。それが8年前の話。(その後土地は何度か買い足して総面積は2600坪!)
まずは更地に
そこからまず木を伐採し抜根して更地にした。って、業者に頼んだのではなく、そこは主にご主人が重機を自ら使って作業をしたのだから、すごい。当時は夫婦揃ってフルタイムで働いていたのだし、もうそれだけでも信じられない気持ちだった。毎年何度かもう一人の友人と3人で会っては、牧場を見せてもらっていて、下は2016年の夏。更地になって、ここが放牧場になる、と教えてもらった。
牧草の種を蒔く
次に写真が残っているのが2018年。牧草の種を蒔いたよ、と教えてくれた。牧草地の牧草って種を蒔くんだ! とトンチンカンな感動を覚えた。だって牧草地って牧草が生えているところって、そう思っていたから。この美味しそうな牧草を食べたのは鹿で、近くで見たら糞があったなぁ。
研究を重ねて
一度種を蒔いたらそれでおしまいではなく、どんな土でどんな種が上手く育つとか、色々人に聞いたりしていたと思う。気候にあってるかとか、雑草に強いかとか、大変なんだよね(←かつてゴルフ場の芝管理=Turf Managementの通訳をしたことがあるんです)。
いよいよ建設
設計や資材の購入、許可の取得や水道管敷設など、ありとあらゆることを二人でこなし、下は2020年の写真で、これからいよいよゲストハウス(1軒建設中なのがわかる)、クラブハウス、厩舎の建設が始まろうというところ。この頃には夫婦ともに早期退職をして、牧場作りに全集中。驚くのは、ネットでログハウスのキットとかを買って作ったりしているところ。そんなことができるんだ?! 知らない世界だった。
馬たち
この先は加速度的に完成形に近づいたように思う。まだ全てが完成したわけではないが、先月プレオープンして2頭の馬が入厩している。ある方が作成した紹介ビデオがあるのでご覧あれ。
1頭は29歳と高齢馬だけど、オーナーが毎日乗ったりして運動させているからか、毛艶も良く、マイペースで心が落ち着いている感じ。もう1頭は故障もあって、新しく馬が入って来て乗馬クラブを出されてしまった馬。その状況がわかっているのかと思うほど、ここに来て良かった、助かったと言って喜んでいるようで、故障も感じさせない。世話をする友人の姿を目で追う視線が優しい。乗馬クラブにいた時は、どこか人に無関心だったという話だが、人懐こくて、甘えるような仕草も見せ、とにかく可愛い。映画『やかまし村の子どもたち』の子どもたち(演技しているとは思えないほど、行動が自然)みたいに、3軒の赤い家が並ぶ牧場で、時に放牧場で寝転んだり、お散歩したり、自分が老齢馬だったら、こんな風に生活したいな、と思える生活をしている。
人も幸せ
馬たちは幸せそうであり、見ていて、実際に触れて、癒されたが、何よりも友人の長い年月をかけて1から夢を現実にする、描いていたイメージを実現するのを身近で目の当たりにすることができた、できていることが幸せ。こんな勇気付けられる(inspiringな)メッセージが他にあるだろうか。
彼女が家(自宅は近所だが別の場所)で育てた野菜を料理してもらって、真ん中の赤いお家でご馳走になり、3人でずっと馬の話をして、夜飼で馬房の窓を閉めるのに付き合い、端のゲストハウスで眠る。至福の時だった。彼女の描いた夢が現実になっているんだけど、私も夢の世界の中にいるようだった。あの映画を観て、なんか幸せな気分になる、好きだなぁって思う、それをリアルで体感した感じ。どこに目をやっても素敵だった。
高齢馬を預かっている限り、これから大変なこと、悲しいことにも遭遇すると思う。でも大丈夫。これまでもきっと色々なことをクリアしてここまで辿り着いた彼女なのだから。やかまし村の騒動が解決して行くように、ごく自然に対処することだろう。これからも心から応援したいし、日本のやかまし村の馬たちにまた会いに行きたい。素晴らしい経験をさせてもらった。感謝、感動、尊敬、幸せ… 心を満タンにして浦河に帰って来た。
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