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アメリカン・ユートピア

映画館のない街って増えているのではないかと思うが、浦河には大黒座という映画館がある。今日初めて足を踏み入れた。デイヴィッド・バーンのアメリカン・ユートピアという舞台をスパイク・リー監督が撮った映画を観るためだ。

最初にスパイク・リーとデイヴィッド・バーンがこの映画を作るきっかけなどを話すのだが、これが楽しい。スパイク・リーってこんなに笑うんだ! 阿吽の呼吸で会話が進む。お互いを尊敬していることがわかる。私的にはデイヴィッド・バーンの知的な英語が美しいと思った。単語の選び方、無駄のない、歯切れの良さ。あぁこんな風に喋れたらいいなぁと心底思いながら聞いていた。

舞台の方は名門美術大学出身のデイヴィド・バーンがある種の境地に行き着いたかような超ミニマル。楽器もunplugged。衣装は全員同じで裸足。歌いながら演奏しながら縦横無尽に動き回る。曲によってはマーチングバンドのようだ。トーキング・ヘッズ時代の曲では当時の振り付けがちょっと入っていたりして、当時のファンにはたまらないだろう(私は奇妙な動きだと思ったものだが、今回はいい感じ)。そして声が当時より低くなってると思うのだが、渋みというか、重厚感があってすごくいいと思う。

毎朝、ネットでCBSのニュースを観るのだが、必ずMTV Pushの宣伝が入る。Shenseeaの歌声は素晴らしいし、曲も好きだが、朝5時台から、この目のやりどころに困るダンス映像は強烈だなぁと思う。そう感じていただけに、このアメリカンユートピアの衣装は邪魔をしないというか、音、音楽、音楽で表現しようとしていることに安心して集中できる。

しかし舞台はセンセーショナルなオープニングだった。スパイク・リーとの会話がなかったら度肝を抜かれていたかもしれない。Black Lives Matterの動きに進展した警官により殺された黒人たちの名前を次々と挙げ、Say his/her nameと観客に一緒に唱和するだけの歌が印象的で、痛ましい事件の数々に改めて気づかされる。

そんな社会問題も取り入れているが、最後がめちゃくちゃ明るくて希望が持てるのも良い。コロナで難しくなって久しいけれど、みんなで盛り上がる劇場の雰囲気、みんなで歌う楽しさがよかったなぁ。

これは全くの偶然だと思うけれど、ポスターのカラーがウクライナの国旗のように見える。『ウクライナから愛をこめて』という本を読んだばかりだったので、そんな風に見えたのかもしれない。


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