しょうもない苦悩。
休職をした。これで2度目。
2月も体調を崩して休職していた。この時は運が悪かったと思っていた節があり、3月復帰し仕事もこなせていたので油断していた。
認識が甘かった。
7月、業務に忙殺され心身共に擦り減り、寝不足になった。中旬頃から朝早く起きれなくなり、遅刻したり午後から出勤することも増えた。
思えばこの時、誰かに相談していたら、少しは違っていたのかもしれない。
気づいた時は仕事に行けなくなっていた。
朝は鉛のように体が重く、頭痛と吐き気でベッドから起き上がれない。
布団を被り、ただただぼんやりとした。何も考えたくない。このまま体が透明になって空気と同化出来たらと妄想する。
世界がモノクロで、やたら無味乾燥なものに感じられた。
8月から休みます、と職場に連絡した。退職したいです、とも伝えたら制度上そう簡単には出来ないと諭された。
分かりました、と電話を切り、家族に蚊の鳴くような声でまた具合悪くなっちゃったと話した。夫と両親、どちらも真剣にこちらの話を聞いてくれた。
ありがたいという感謝の気持ちと、不甲斐なくて申し訳ないという気持ちで情緒が破綻し、小さい子みたいにずっとメソメソ泣いていた。
適応障害の診断が下り、休職して1週間。
体調は優れず、一日中横になっていた。
丸一日、食事がほとんど取れない日もあった。
相変わらず世界は色を失っていて、冷酷だった。
なんで自分は医師になったんだっけ。そもそもなんで、何のために生きているのだろう。
わからなくなってしまった。
いっそのこと消えたいと強く思った。これも希死念慮に入ってしまうのだろうか。
---自分の存在意義って、一体なんだろう。
重たい頭で、小学校からの思い出をなぞってみる。
小学校2年生の頃にブラックジャックという最高にカッコいい作品に出会い、将来お医者さんになってやろうと決意した。
そのあとは中学受験合格、大学受験合格、国家試験合格という目標を達成するべく、人生についてあれこれ考える暇もなくずっと勉強に没頭していた。
幸い勉学や読書が趣味みたいなところがあり、どの目標も順調にクリアできた。
しかし、私は幼いままだった。
頭でっかちの未熟な大人のまま、社会人に突入してしまった。
ストレスコーピングや感情のコントロールが周囲と比べて苦手であることに、今更ながら気付いた。
加えて、目標を失った。
今まで無条件で与えられていた目標に向かって、ある意味何も考えず取り組んでいた。
やることが明確であった。
周囲もそれだけで賞賛してくれた。優秀だとも言ってくれた。
どこかで自分は何でもできる最強の存在だと、ひどく稚拙な勘違いをしていた。
医師になった今、自分で目標を設定し試行錯誤を重ねつつ、これからの人生を歩んでいかなくてはいけなくなった。
梯子を突然外されたような気分だ。
文字通り人生の迷子になってしまった。
仕事に没頭出来たら、今までの私の生き方を見るとそれが一番幸せだったのかなとも思う。
しかし、子供な私にとって、仕事は没頭する以前に苦痛なものとなってしまった。
休職して2週間。
職場を離れ、家族と話したり友人と連絡を取るうちに気持ちは徐々に落ち着いてきた。
ご飯も食べられるようになり、趣味の料理やカメラも再開出来るまでになった。
世界も、ゆっくりではあるが色づいてきたように思えた。
しかし、夜中1人でテレビを観ている時とかに、ふと暗澹たる気持ちがふつふつと湧き上がってきてしまう時がある。
胸が苦しくなり、涙が溢れる。
フラッシュバックする度に、自分は全然立ち直れていないことを実感する。
病院に行くこと、職場の同僚や先輩、後輩に会うことが怖くなっている自分がいることに気づかされる。
今いる病院を退職し、新しい病院に移って、穏やかな研修生活が送れたとして。
このままずっと迷子で、もがき苦しんで、その先もずっと虚無な人生だとしたら。
医師を辞める羽目になったとしたら。
くだらない妄想だ、と笑われるだろうが、私には怖くてたまらないのである。
ちょっと、疲れたな。
いまは、好きなことだけしていたい。
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