論理療法
ある日、診察に来た子から、すみっコぐらしのネコの置物をもらいました。
ネコが仲良しのザッソウと一緒に縁側で日向ぼっこをしているものです。
それを診察室に飾ったのを機に、診察内ですみっコぐらしのどのキャラが好きか、という話をするようになったのですが、
私の診察室に来る子の人気ナンバー1は、ダントツ、ネコでした。
2021年3月にねとらぼ調査隊というサイトで行われた人気投票では、
1位はトカゲ、2位はエビフライのしっぽ、3位がネコだったそうです。
ちなみに、まんまるして癒やし系のネコですが、
すみっこに居ざるを得なくなった過去があること、ご存じですか?
ネコは元々、他2匹の兄弟ネコと一緒に、段ボール箱に入れられて捨てられました。
その時はスリムだったのですが、食べ物を独り占めにしているうちに、
自分だけがまん丸体型になりました。
その後、スリムな2匹の兄弟ネコは、同情されて拾われていきましたが、
まん丸なネコは、自分一人残ってしまい、
気が弱くて、周りに気を遣ってばかりの性格となりました。
そして、スリムな猫に憧れて今の自分の体型を気にしている、という設定です。
後に兄弟2人と再会するという後日談もあります。
「あのとき、欲張って食べてごめんね」と告げ、
兄弟から「気にしてないよ」と言ってもらいます。
その時実は、他の2匹も丸々と太ったよく似た猫に成長していたというオチです。
私の診察室に来るネコ好きの子たちは、
そんなネコの性格や背景が好きなのか、見た目が好きなのか、
それは人それぞれなので一概に言えませんが、
ネコのように周りに気を遣う性格の人も、幼児期までさかのぼって話を聞いていくと、
元々はむしろ真逆の天真爛漫な性格だったけれど、
ある時、何か怒られたり、失敗したりといった出来事を機に、
周りに気を遣って、傷つかないように慎重になっている、という人も少なくはありません。
こんな風に、ある出来事を境に、自分らしさを出せなくなった、ということがある場合、
その出来事がその人にとってトラウマ的な出来事となって、
類似した事に直面すると同じような辛さが再現されてしまう、ということが起こり得ます。
そこに対する治療的アプローチは色々あると思いますが、
当院では精神療法を行っています。
精神療法の中でも、アプローチの仕方はいくつもありますが、
今日は、小学生の子も行えるアプローチをご紹介します。
論理療法というものです。
これはまず、
A(Activating event)という出来事があるから
C(Consequence)という感情が起こるのではなく、
AならCに違いないというB(Belief)考え方があるから
Cという感情に結びつくのだ、というABC理論を元にしています。
そして、Belief、考え方には、
ラショナルビリーフ(現実的)とイラショナルビリーフ(非現実的)
の2つがあり、
Bがイラショナルビリーフの場合、徹底的にそれが現実的なものかどうか考えて、
ラショナルビリーフに導いていくことで、自分自身の悩みを減らすというやり方です。
ネコの話で考えてみましょう。
出来事:兄弟の分まで食べ物を食べ続けて太った
結果:誰にも拾われなかった
ここで、ネコの考え方がイラショナルビリーフに該当する考え方をしているから、
その後、周りに気を遣いすぎる性格になってしまったのだと思います。
恐らくそのイラショナルビリーフは
「兄弟の分まで食べることは悪いことである」
「兄弟の分まで欲張って食べる猫は人から好かれない」
というようなビリーフだったのかなと思います。
でも、本当にそうでしょうか。
野良猫が他の猫の分を奪って食べるということは、
生存力がある、という証拠かもしれません。
もしかすると他の2匹は捨てられたことで落ち込んでしまって、
食欲がなくなり、食いつけなかったから、
ネコが一人で食べる結果になっていたのかもしれません。
野良猫が兄弟の分まで食べることは、現実的に考えてみると、
決して悪いことだとは言えません。
そして、「太っていたから拾われなかった」というのもイラショナルビリーフです。
他の2匹を拾った人達は、それぞれの色が気に入って、拾ったのかもしれません。
そもそも、人間に拾われることがネコにとって幸せだったかどうかもわかりません。
ネコは沢山食べて丸々太ったことで、
野良猫としての自分らしい生き方を確立したのかもしれません。
このように、「AだからCが起こったに違いない」という確信が、
本当にその通りかどうか、現実と照らし合わせてとことん考える、
というのが論理療法の基本です。
ペアトレで
「子どもに対して持っている『べき』を捨てる」ことをお話しています。
「『べき』を捨てる」ためにも、
本当にこうあるべきか、ということをとことん考える論理療法が役に立ちます。
親子で身につけて、一緒に考えていけるといいですね。
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