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千字戦(2回戦) お題「開いている」

「検討委員会」(874字/20分)

「それでは、戦略的な資産マネジメントの観点からよろしくお願いします」
と安田が言った。
ほがらかであった。

資産はわかる。
マネジメントもわかる。
資産マネジメントもわかる一応。
しかし、戦略的であることがなんかもうずっといまいちわからない。
だいたい何と戦わねばならんのかおれは、とにがにがしくおもいながらネクタイを直す。資産としての保全、運用についての私見を語り、マネジメントに関する一般的な考え方を申し述べ、本市の財政状況と人口推移の見通しと、沿線の再開発計画を確認しながら、倒壊寸前の文化施設の名を順にあげた。
「このままいきますと10年後には、築30年を超える施設が全体の70%に達するわけで」
と言葉をつづけながら、これから先、メンテナンスに必要とされる莫大な費用のことを考え始めると吐き気がした。おれの金ではないのに。試算をはじめてからずっと身を切られるようにからだがいたい。

「10年後でこれですからね」
「20年後大丈夫ですかね」
「30年後ともなれば」
大丈夫なわけないだろうくそがと頭に血が上り、ファイルを叩きつける代わりに、市長に向かってしっかりと笑ってみせた。
「それなんとかなるんでしょ」
と、市長がたっぷりと微笑み返した。

高い志のもとひらかれた施設には、外からの人々も勝手につかい、なんなら住まいはじめてしまったおかげであたり一帯小競り合いが絶えない。すべての人々に豊かさを、とぶちあげた市長に、現実的な話が通じるわけなどなかった。今夜はすき焼きだから、と送り出してもらったことが恨めしくなるくらいに、おれはいま消えてしまいたい。こみあげるものをねじ伏せながら、たとえば音響設備には5年、舞台機構はおおむね15年に一度、建物は30年に一度おおきく手を入れなければならないわけでして、と説明を続けようとしたの口を安田が両手で覆うのを振り切って、どうせ滅びるしかないことがわかっているのに律儀に総合計画を更新し続ける我がまちの馬鹿さ加減を呪いながら、キングギドラの出現を希(こいねが)うおれに代わって、安田がポンチ絵をすりつぶすようにして読み上げていく。

                                 了


感想のようなもの
1回戦は、予告通り1対1でのトーナメント戦。口頭でジャッジしていくので名を呼ばれるたびにありがとうがこぼれるかわりに、呼ばれないと魂が削られます。

2回戦以降は、お時間の都合上(?)トーナメント戦ではなく、(1回戦敗者含め)参加者全員同一テーマで執筆、上位3位を選択するシステム。となりました。敗者復活戦との抱き合わせのようなスタイルでしょうか。みんなでごりごりやる時間は気持ちがいいですね。

ただもう自分は22時を過ぎるとだいたいからきしで、日付をまたぐと正気を保てない。途中ごまちゃんをあやしながら、己の弱点をたしかめるような年の暮れでありました。しかし、ふわっとしたあたまで人様のテキスト、朗読を浴びていると「判断」というものを一切手放したくなるのがおもしろかった。どの作品にも、息をのむような箇所がありましたし、お声に乗って、書き手の魂、みたいなものがすっと走り抜けていくような感覚も大変おもしろかったです。

お手合わせいただきましたみなさま、また西崎さんには、大変おつかれさまでした&ありがとうございました! 
どうぞよい年をお迎えください。

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