葛藤と逡巡
我が家のきみちゃん、普段はそうそう噛むことはないが、食べ物が絡む時と発情中は、本気で噛むことがある。
特に発情という本能に支配されている間は、理性が吹き飛んでいるのがよく分かるので、ある程度は致し方なし、と思いはするものの、やはりいけないことはいけないと伝える必要があるので、「痛い」となるべく冷静に言うのだが、もはや伝わるものではなく、指の皮がちょっと深くえぐれるだけである。
理性の飛んだコザクラインコほど、怖いものはない。
なんなら少しずつ噛む力を強めていったりなどするから、あれ、本当に理性飛んでるのかな?(冷静に計算してない?)と、一抹の疑念を抱かないと言ったら嘘になるが、歳を重ねるごとに、きみちゃんもやはり大人になっているようで、反射的にガブリとやってしまうものの、頭の端には「噛んではいけない」という日頃の教えが粘り強く残っていて、どうやら途中から少し迷いが生じるものらしい。
その辺りの葛藤やためらいが、おクチの先から如実に指先に伝わって来ると、私はもう怒る気持ちなどなくしてしまい、可愛いやら面白いやらで、なんならちょっと笑いをこらえていたりなどする。
そして私の指にくっきりとクチバシの跡を残しつつ、少しばかりのバツの悪さを覗わせながら、何事もなかったかのように急にご飯を食べ始めるきみちゃんを、愛おしく眺めるのだ。
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