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掌編・短編集

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単発の掌編、短編小説を集めたマガジンです。様々なジャンルを展開します。
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#家族

【短編】カーニバル・後編

伏見稲荷を出て再び電車に乗り、特にあてもなかったので終点・出町柳駅まで出た。 駅を降りれば賀茂川と高野川の交わる鴨川デルタが目の前にある。 賀茂大橋を渡れば京都御所。 ここも正宗と一緒に歩いた所だ。 俺たちは橋は渡らず、土手に降りて川沿いを下っていった。あの時と同じように土手には多くの若者や家族連れがそぞろに歩いたり、等間隔で腰を下ろし和やかな時を過ごしている。 日も傾き始め日差しは緩んだが、まだまだムッとする熱気がこの盆地を包み込んでいる。 「僕もう疲れたよ」 一番

【短編】カーニバル・前編

「京都?」 「うん、子供たちを連れて行きたいと思って」 ドイツに来て2年が過ぎ、家族のビザの関係もあって一度帰国する事にした。 もちろん領事館に行けばわざわざ帰国する必要もないのだが、ちょうど8月。バカンスの時期。 そして、正宗の七周忌だった。 『お前グローバルに活躍してるようやけどな。日本のいいとこも忘れたらアカンで』 娘の梨沙は間もなく8歳、息子の蓮も6歳になった。悪くないタイミングだと思った。 『子供たちに京都見せてやり』 正宗の言葉が事あるごとに去来してい