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掌編・短編集

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単発の掌編、短編小説を集めたマガジンです。様々なジャンルを展開します。
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#エッセイ

寄せる波が足跡を消しても、弥立ちは消えず

私は泳げないし、マリンスポーツも興味がないし、何なら魚の匂いも苦手なのだが、海は何時間でも眺めていられる。 20年以上前、10歳以上歳上のおねえさんな友人と2人で、もう日も暮れる鎌倉の海岸に座って、しばらく話をした。普段は会社の近くで何人かで飲むような知り合いだったので、なぜ休日に2人で鎌倉なんかに行ったのか、全く思い出せない。 ただ今になっても、こうして1人海岸に立つと、あの時のこと思い出す。年の離れた私のことをかわいがってくれた、おねえさん。 あの頃のように、私も誰

【掌編小説】桃

気になるあの娘を思い出しながら、僕は桃を食べる。 彼女のSNSのアイコンは桃だった。 僕は自分の好きな、いろいろんな果物の話をしたら、 「すみません、桃以外は好きじゃないんです。興味がないんです」 と言った。 そして 「桃だったらお菓子でも大好きです」 なんだそうだ。 面白い子だな、と思った。 彼女は少年のようにひょろっとして、透き通るような白い肌をしていた。 そんな彼女の頬はまさに桃のような色づきだった。 いつもキリッと口許を結んでいて口数は少なく、どこにいても控えめ