【連載小説】あなたに出逢いたかった #28
香弥子が洗い物と茶の用意をする間、やはり前を向いたままの隆次が
「梨沙もようやくちち離れか」
と言った。
「聞いてたの?」
「聞こえただけで聞いていたわけじゃない」
「ヘッドフォンの意味」
「ノイキャンなだけだよ。話し声を全く遮断しているわけじゃない」
「言わないでよね」
「誰に? 兄ちゃんにか? 言うわけ無いだろ。兄ちゃんにとっては喜ばしいことだけどな。やっと梨沙から解放されるってな」
解放なんて酷い言い方だと梨沙は思った。親子なんだから、縛り付けあっているわけでも