大殺界中と知っていたら、、、の話(前編)
(約1,700文字です)
ある冬の日。まだ、コロナもなく、キャンプも始めていなかった頃、、、。
子供が雪を見たいと言った。
年々暖冬傾向であり、雪が降っても積もることなど、わが家の周りでは数年に一回あるかないかだ。
夫は「パパに任せろ!」とばかりに請け負った。
そして、急遽、関東圏でも雪が確実にある場所へ行くことになった。
私は、そこがどんな場所であるか知らなかった。
ただ、週末毎の子供の為のイベントをひねり出さなくて済んだことに少しホッとしていた。
「あったかい恰好してね」と夫がバクッと指示してきた。
いつもは、出先で残雪があったらラッキー!というレベルで遊んでいた。
出かけた際のおまけみたいな感覚だ。
真冬、夜景をみる位で、大丈夫だろうと思った。
子供には、コーデュロイのパンツと、フリースを着せ、ニット帽にマフラーというスタイルにした。
私は、厚手のセーターに普段であればウルトラライトダウンを着るのだが、雪対策でレインコートを着用した。
そして、雪でぬれても大丈夫なようゴム製の長くつを車に積んだ。
いざ、出発すると、日頃の家事育児で疲れ気味であった私は、これ幸いと後ろの席で少し、ぼーっと過ごしていた。
その間、夫は運転しながら目的地について説明をしてたのだが、私は「へー、そうなんだー」とひたすら生返事を繰り返し、どうやら群馬県に行くらしいことしか把握していなかった。
チャイルドシートに収められた我が子は、雪で遊べることにわくわくと目を輝かせている。
空は澄み、青く晴れ渡っていた。
もうすぐ着くよ、と夫が言った。
辺り一面、一握りの雪も見当たらなかった。
ただ、山が眼前に迫っていた。
目的地はその山の頂上にあるという。
ほう、、、?
標高が上がるにつれて、景色も変貌していった。
雪が積もり、真っ白な樹々が姿を現した。
美しかった。
夢中で写真に収めた。
子供も初めての白い世界に目を丸くしている。
ぐんぐん車で上っていくにつれ、それまでと違う、ひんやりとした空気が車の中を満たしていった。
やっと頂上の駐車エリアに到着した。
車内から見ても、もう下界とは全く違う銀世界かつ、凄まじい強風が吹き荒れているのが分かった。
思わず気温をチェックする。
「マイナス4度」だった。
「北海道と同じ気候帯なんだよ」と夫が親切に教えてくれた。
え?
そこは「標高約1,300m、2月の赤城大沼」だった。
ちょっと雪遊びするつもりが、ダウンジャケットなし、気持~ち「あったかい」程度の恰好で「冬の北海道」に来ていたのだ。
改めて見ると、夫はボアフード付き最強ダウンと裏起毛パンツで万全な装備である。
(あなたのその完璧さを、もそっと全方位的に活用して欲しかったです)
私は状況が飲み込めないままだったが、沼へ行ってみることになった。
実は防寒よりもより重要な問題が別にあったのだが、、、。
子供はサイドゴアの合皮ブーツで、私は、ゴム製の長靴に履き替えた。
なぜなら沼がどうなっているのか全然想像できなかったのだ。
なんとなく、キラめくパウダースノウにパフっとハマっちゃったりしながら、雪遊びに興じる〜みたいな妄想光景しか思い描けなかった。
車から降りた瞬間、それまで経験したことのない猛烈な強風がンゴゴゴォーッと襲ってきた。
肌に突き刺さるような冷気、そして真横に吹く凶暴な風に下半身デブだろうが関係なく、体が持って行かれそうだった。
この時点で、子供と車に残る選択をするべきだった。
さらなる恐ろしい事態が待ち受けていることを、私はまったく予測しなかった。
せっかく来たんだからと、そのまま歩を進めてしまったのだ。
あまりの強風に子供を夫に託し、なんとか抗いながら、駐車場から大沼へと一歩一歩近づいて行ったのだが、、、。
目の前には、ふんわりとした銀世界予想していたのとはまったく違う景色が広がっていた。
一面、氷の世界。
粉雪が「氷上」を文字通り、流れていた。
これが「赤城ブリザード」であった。
気がつけば生まれて初めてのブリザードに、普段着に毛が生えた程度の装備で突入していたのだった。
(後編へと続く)