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メンタル・マッチョ・ゴリラ vol.6   「ジャングル叙事詩」

私の入社する遥か以前、猛獣たちがその歴史に初めて登場し、プランニングセクションがただ、PSと呼ばれていたころ。そこは、清浄な空気に満たされ、可憐な花々が彩り、小鳥たちがさえずるこの世の楽園のような場所、、、






いや、小さな一つの部署に過ぎなかった。




もともと西は大阪支社の営業部にいたオサム。100%コネ入社であったと思われるが、破天荒な営業スタイルでメキメキ頭角を現した。コンプラという概念が存在しない時代。その手腕が具体的にどのようなものであったのかは不明だが、すぐに同郷でもある社長のお気に入りとなった。

当然のように本社へ栄転を打診されたが、彼にとっては東なんぞ都落ちと同じとばかりに、のらりくらりかわし続ける。

そんな時、どこかの座敷でと会った。



昔から東男あずまおとこ

京女というではありませんか~




こんな感じで見つめられたのかも!


忖度なくズケズケ話し、それはそれは気風のいい東男あずまおとこ。宵越しの金は持たねぇよ、とぱっぱ、ぱっぱと金離れも半端ない。

大概の遊びはやり尽くしたボンボン、オサムであったが、それまで会ったことのないその男っぷりにすっかり惚れてしまった。とうとう彼を追っかけ、東の都にやってきたのである。本社では、待ってました!とばかりに住まいを用意し、オサムを迎えた。(いや~、いい時代)

いざ、来てみれば花のお江戸、いや、東京も悪くない。愛するダーリン(古っ)との夢のような日々にオサムは感涙した。が、そんな浮世の夢はすぐに散る。
肝心の東男あずまおとこが煙のように消え失せたのだ。
かねてより策士と噂される社長が、一言。

「縁がなかったんだな。」

しかし、神はオサムを見放すことはなかった。

かけがえのない出会いが待っていたのである。

前世での失敗を今生で繰り返さないよう、互いを高めあうための、、、



魂のパートナー。



素晴らしい本です。


そのパートナーと二人三脚でPSをジャングルへと変貌させていったのだ。



当初から、東京の営業部ではオサムの受け入れに不安反対の声があがっていた。

難波の地よりやってきた凄腕に数字を奪われることを恐れたのか?








いや、

みさおの方だった。





オサムは常々言っていた。

「僕、すごいのよぉ。

ノンケだって落とす。」


最後のとこだけ、低音イケボ。
誰になんのアピールなのだか。おそらく己に酔った独り言。

オボコイ私にはなんのことやらであったが、自分はセーフ、だけは分かった。



彼の大阪での所業が漏れ伝わってくるにつれ、東京営業部一丸となって抵抗運動が始まった。部下を守るため、はたまた俺も餌食か、と恐れた営業本部長の首をかけた決死の拒否により、オサムは一時社長付きという宙ぶらりんの立場となってしまった。






守るべきものがある!



そんなすったもんだの末、美大出身であったオサムは商品開発の部署へひとまず異動となった。頃合いをみて、営業部へ戻す算段であったのか、改革を視野にPSへ入れたのか。やり手社長にどんな思惑があったのかは、分からない。

ただ、非営業部門へのオサムの異動は結果的に社を大躍進させた。

益率の低い仕入れ商品と自社のオリジナル商品の売上割合が逆転したのだ。

狂乱ともいえるバブル景気を背景にオサムが開発した超高価格帯の商品群は、記録的に数字を伸ばしていった。それにともないPSも、加工部門の一隅から大部屋へと移り、とうとうワンフロアすべてを有するまでに成長した。

札束が立つほどのボーナス(当時は手渡し!)が、社員には支給され、誰もが、オサムを称えた。営業たちは命知らずにも、オサムとも出歩くようになり、彼は東の地でも立派に市民権を得たのである。

一見、向かうところ敵なしに見えたオサムであったが、その存在を疎む者がいた。

その美貌ゆえであろうか、美容業界から引き抜かれ、数人だけのPSにそれまで君臨していた橋爪さんである。

彼女は、現金をとにかく何かに替える必要に迫られた人々が喜ぶ商品を生み出し、実績を挙げていた。

価値が上下する事はあっても、決して失われる事がないのが貴金属。(もし、ダイヤとぶっとい金のチェーンだったら、センスを疑われても私はチェーンを選ぶ)


自分、堅実なので!





同じ珍獣科に属し、はたから見れば同じ危険生物だが、互いにまったく相容れなかった。いる場所が同じだけの2体。

オサムは、橋爪さんの開発する商品を前に大仰に嘆く。
デッサンどころか美術の基礎さえ学んでいない者がなぜ商品作りに携わり、
凡庸以下の商品ゴミを量産するの?という疑問を、決して隠そうとはしなかった。

バブル崩壊後、アナコンダの不良在庫を買わされる恐怖に怯える社員は実際、大勢いた。 

私自身も、もれなく洗礼を受けた。鎧のように重たい筋トレグッズ 装身具を購入させていただき、一度も出陣せず、後年地金として売却した。


注:イメージです。
身を飾るというか、守る感じの、、、


当初、2体の机は、PSの端と端、もっとも距離を置いて設置されていた。

アナコンダは、唯一自分に歯向かう生意気な哺乳類カバ男を天敵認定し、すきあらば巻き付こうと常に狙っていた。

営業部ではないので、数字の競い合いはない。(展示会の売り上げは、エンドユーザーを招待した百貨店、小売店の担当営業の成績となる)

商材の奪い合い、展示会でのメインケースの取り合い、カタログの表紙はどちらの商品が飾るのか、などなどキリがない。

業務の枠を超え、己の存在意義を賭けた闘いは永きに渡り、繰り返された。

多くのものがこの諍いに巻き込まれては傷つき、破れ、去って行き、PSは荒廃していったのである。

いつの間にか、太い樹木がうっそうと生い茂り、陽の光も届かなくなった。

その頃には、社の隅々までその闘いは知られるようになり、人々は
入ったら出られない魔境ジャングルと呼び、恐れた。



ジャングル・サーガ


漆黒の闇が大地を覆わんとし、長老たち(幹部の)は一計を案じた。

怯える他の平和的な生き物たちを守り、サバンナの安全を確保するため、生活能力ゼロのオサムと人望ゼロの橋爪係長だけのジャングルじまZEROが、満を持して形成されたのである。

当初は、頑としてとぐろを解こうとしなかったアナコンダも、部長席近くは上座であるという長老の計略に乗り 説得に応じた。

長らく揉めていた昇進問題も一気に解消した。
二人同時で、係長となったのだ。(特例だらけ)




反目すればするほど、距離は縮まってゆき、
とうとう互いの息吹がすぐ感じられるほどに近づく、

、、、2体の、、、獣、、、



互いが魂のパートナーであったと気づくことは、今生ではない。





近日、公開。



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