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J信用金庫 v.s. MBA交流クラブ vol. 5

前回のつづきです。
vol. 4はこちらhttps://note.com/male_childcare/n/n62e8e0b7caa1

1月27日、佐伯と藤岡は平良の自宅マンションへと向かった。
この日は厚い雲が太陽を覆い隠しており、今にも雨が降り出しそうな天気であった。
「係長にまでわざわざ出てきてもらってすみません。」と藤岡は言った。
国際金融部からの回答によって、藤岡たちは送金の組み戻しを行う必要があり、それには被仕向人である平良の了承を得なければならない。
「気にするな。よくあることだ。気楽にいこう。」佐伯はいつもの穏やかな表情で言った。
 
平良は自宅マンションのロビー横にある応接スペースに佐伯と藤岡を案内した。
上司同行か、と平良は思った。良い話ではなさそうだな。
「入金の件、現状では少し難しい状況です。」藤岡は申し訳なさそうに言った。
 
新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、全員マスクで会話するということは当たり前の光景になったが、やはり表情が見えないコミュニケーションは異様である。マスクの下で相手が何を考えているのかが見えない。まるで、お互いの手札を読み合いながら、賭金を積み上げていくポーカーのような緊張感が漂う。

「それで」平良は言った。「入金できない理由は何ですか?」
「送金元のMJBCA様というのはモンゴルの任意団体ですよね?この団体の詳細が分からないというところが一番の理由になります。」藤岡は言葉を選びながら言った。
「なるほど・・・、それを確認するためには何が必要ですか?」
「そうですね、団体の役員名簿などですかね・・・。」
「分かりました。ご用意します。」平良は言った。
藤岡は視線を泳がせる。そこで佐伯が割って入る。
「平良さん。仮にその資料をご用意いただいたとしても、入金されるかどうかは分からないですよ。」
「・・・というと?」
「総合的判断なので、何の資料があったら大丈夫というものでもないんですよ。」
平良はいら立ちを隠すために、一度目線をそらし、頭を掻いた。
(まるで他人事のように言っているが、判断しているのはお前ら信金だろう。)

「つまり・・・」平良はできるだけ穏やかな口調で言った。「今回のようにこちらが書類を用意して、その都度審査を行なって、ダメならまた不足分の資料を提出する、そういうことですか?」
「その通りです!」佐伯はまるでクイズの正解を伝えるかのような口調で言った。その口調がさらに平良を苛立たせる。
「それはまた随分と非効率な体制で対応されていますね。」平良は思わず嫌味っぽい口調になる。
「おっしゃる通りで、実は先日、ベトナムから日本に来ていた留学生が母国の自分の口座へ送金したいという話がありました。その時ですと、なんだかんだ結局一年近くかかりました。」
「え⁉︎一年ですか⁉︎」平良は目を丸くして言った。「私にはそれは異常に時間がかかっているように聞こえるのですが、それが普通ということなのでしょうか?」
「そうですね、海外送金の場合、それくらい厳しく対応しています。」
平良は心の中で毒づいた。
(本当か?顧客によって対応変えているだけだろ?)
お得意先に金融機関がそんなずさんな対応をしているわけがない。
しかし、資本主義社会において、顧客によって対応を変えることは当たり前のことであり、それは今この場で議論することではない。
 
「それで、今回の入金もその位の期間がかかるかもしれない、そういうことですね?」
「その通りです。一年かけて入金できれば良いですが、それでも入金できるかは分かりません。今回のケースでは送金元がモンゴルの任意団体ということで、審査には余計に時間がかかると思われます。」佐伯は両手を広げて、いかにも大げさに言った。
何をどう審査すれば一年という時間がかかるのかが全く理解できない。こんな理不尽なことを言う背景には、なんだかんだと言いくるめてこの海外送金の対応をしたくないという信金側の意向があるのだろう。
佐伯は言った。「例えばどうでしょう。他の銀行の口座を使用するなり、PayPalなどの決済システムを利用するなり、そういうかたちでご対応いただけませんか?」
 
しばらく逡巡したあと、平良は言った。「分かりました。他のルートが可能かどうか先方と相談してみます。」
もはや話し合いが無意味であることを悟った平良は、早く処理することを優先した。
佐伯と藤岡はほっとした表情を浮かべた。
「では、今回の送金は組み戻しということでよろしいですね?」藤岡が言った。
「いえ、組み戻しは待ってください。先方に確認が取れ次第、こちらからご連絡いたします。」
その日の面談は終了した。
 
平良は協賛団体であるMJBCAに連絡を取り、事情を説明した。幸運なことに関係者に日本人がいて、その方の日本の銀行口座を経由して、協賛金を振り込んでくれることになった。このような柔軟な対応はとてもありがたい。
早速、平良はJ信金の藤岡に電話を入れる。
「何とか別ルートでの協賛金の受け取りの目処が付きました。今回の海外送金の組み戻しをお願いします。」
「承知しました。組み戻しに当たって、同意書へのサインと捺印が必要になります。ご自宅へお伺いしますので、銀行印のご準備をお願いします。」

2月3日、藤岡は組み戻し同意書を持って平良の自宅マンションへやって来た。
 
『今回の組み戻しにより損害等が発生した場合、当金庫は一切責任を負いません』
確かに組戻しにあたり、この辺の注意喚起は書類で確認が必要だろう。しかしながら、銀行印まで用意させるとは、なかなかの徹底ぶりである。
 
「ところで」平良は言った。「実は、三菱UFJ銀行が協賛企業として加わる予定です。そして、協賛金はモンゴルにあるウランバートル事務所からの海外送金というかたちになります。」
藤岡の表情がこわばる。
「今回はモンゴルの任意団体からの送金であったことが入金できない理由だと理解しています。さすがにメガバンクであるMUFGからの海外送金は受け取れますよね?」平良は語気を強めて念を押した。
「そうですね・・・確かに、MUFGからの海外送金であれば、問題はなさそうですね。審査をしている部署次第なので、何とも言えませんが。もしかしたら止められずに入金されるかもしれません。」と藤岡は言った。
 
つづく

※本事件は本人訴訟で裁判中です。応援していただける方は、記事のシェアもしくは”♡”をクリックして下さい。

(参考資料)

※実際の人物・団体などとは関係ありません。

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メールアドレス:mba2022.office@gmail.com

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