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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第36話 原油ロンダリングの実態

前回の話はこちらから
 
https://note.com/malaysiachansan/n/n881ddf6c3e00
 
 この話は2019年9月まで遡る。マレーシアのポートクランでコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、いつものように自社のコンテナ置き場にいた。ちなみにポートクランにはウエストポートとノースポートという大きな港が二つあり、ウエストポートは基本的にコンテナ船が多く寄港する港なのだが、ノースポートはそれに加えてタンカーやバラ積み船も無数に寄港する。氷堂の会社はノースポートにあるため、そこでは様々な種類の船が停泊していた。
 

 
 ある日、それらの船を眺めていると、氷堂の会社のCOOであるカイルディンが氷堂に話しかけてきた。ちなみにカイルディンはポートクランで30年以上キャリアを積んできた、マレーシアの港湾業界の大物だ。
 
「おいリツ、知っているか。来月に南米から15隻、原油の大型タンカーがノースポートに寄港する事になっている。なので俺たちのコンテナが載った船の到着スケジュールにも影響が出るかもしれない。」
 
 その言葉を聞いて氷堂も返す。
 
「南米から大型タンカーが15隻?それは凄い数の船だね。そんな数は今まで聞いた事ないよ。ポートクランは中継港だから、船員の交替や貨物の積み替えで停泊する事はあっても、今回は寄港して原油を降ろすんだよね?荷主はどこの会社なのかな?」
 
 質問を受けたカイルディンは答える。
 
「いや、リツ。実のところ俺にも良く分からないんだ。この話はまだ表立って出てはいないらしく、人伝えに俺のところに流れてきた。ただ仮に15隻タンカーが寄港しても、コンテナ船の着岸の遅延は数日程度だろう。だから俺たちの会社にとって、別に大きな問題とはならないはずだ。」
 
 カイルディンの言葉を聞き、氷堂も言い返す。
 
「それは確かにその通りなんだけど、15隻も南米からタンカーが来るって、やっぱり普通ではないよ。きっと何か裏があるに違いない。ねぇカイルディン、僕の方でちょっと調べてみて良いかな?」
 
 カイルディンは答える。
 
「おいリツ、お前はいつもそうだ。面倒くさい事に首を突っ込むんじゃない。俺の勘なんだが、こういう案件には大抵は闇社会が関係している。下手に手を出すと取り返しのつかない事になるぞ。」
 
 しかし氷堂も負けてはいない。
 
「うーん、そうかぁ。たださ、やっぱり知りたいんだよ。真実を。だから…僕はこの件を調べてみる事にするよ。トラブルには巻き込まれない様に注意するから心配しないで欲しい。」
 
 氷堂がそう言うと、カイルディンはやれやれという表情で答えた。
 
「分かったよ、リツ。まぁ俺が止めてもお前は調べるだろ?だがくれぐれも気を付けろよ。社長が事件に巻き込まれたら、事業が継続できなくなっちまうからな。」
 
 氷堂の好奇心を前にして、カイルディンは諦めが付いたようだ。少し無鉄砲な氷堂と、それを諫めるカイルディン。対照的な二人による二人三脚で、氷堂の会社はここまで事業を拡大してきた。そして二人の間には言葉を超えた強い信頼が流れていた。そして氷堂は言った。
 
「ありがとう、カイルディン。助かるよ。じゃあ今日はもうオフィスには戻らないから、後はよろしくね。」
 
 そう言うと氷堂は踵を返してコンテナ置き場を立ち去った。そして氷堂は事の真相を調べるべく、港湾本部へと向かった。しかし氷堂のこの行動が後に大きな事件に繋がるとは、この時はまだ想像だにしなかった。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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