ショーロク!! 7月前半ー3

3.修学旅行の思い出~本音バージョンその1~

 実際、修学旅行の朝はやたらと早起きしてしまった。
 楽しみにしていたせいか、いつも遅くまで寝ているはずの日曜の朝に出発しないといけないせいで体内時計がおかしくなったのかは分からない。

 前日に修学旅行の荷物チェックと称して、いったん学校に荷物を持って来させられた。
 オレたちが余計なものを持って行かないかのチェックなのだろうが、そんなこと無駄である。
 チェックが済んでから、オレたちは全ての荷物をひっくり返して、キンケシ(キン肉マンの消しゴム)やらねり消し、スーパーボールなど、遊べそうな軽いおもちゃを詰め込むことに余念がなかった。あと、夜に隠れて食べる駄菓子も。
 
 新幹線のホームでは1組の男子がケンカを始めて、一人が線路に投げ込まれたため、一時ホーム全体が騒然となってしまった。
 キシモトが必死の形相で駅員に事情を説明しつつ、線路に降りて、そいつを救出していた。教師も命がけである。

 オレたち3組おもろメンバーズはキシモトがホームに上がろうとしたときに手を貸してやりに行った。
 手を差し出しては引っ込める、という一連のベタなやり取りを3回やったところで、キシモトがぶち切れた。

 新幹線の中では車両の前後をセンセーたちが固めたせいで、オレたちは他の車両に遊びに行けなかった。
 仕方なく新幹線の座席をくるくる回しながら遊んでいた。

 そこにグミを袋に入れたまま置くと、煎餅大に伸びるので面白くて何度もやっているうちに、座席に何かが引っかかって回らなくなってしまった。
 仕方なく、キタンとテッつんが斜めになったまま座った。それはそれで面白かったが、見回りに来た車掌さんにえらく怒られた。

 新幹線を降りる直前に、キシモトから原稿用紙を渡されてあいさつ文を考えるように言われた。
 バスの後ろに陣取って、オレ、キタン、テッつん、クリちゃんの4人で横並びに座った。

 斜め前にはブーヤンとおっくんなどが座っていた。清川は乗り物酔いを避けて、最前列にいた。小笠原も同様の理由で最前列にいたので、オレはちょっとだけ心が揺らいだ。というのも、キシモトから『文を書くなら前にいた方がいいやろ』なんて言われたからだ。
 とはいえ、後ろの座席だと隠れてお菓子が食べ放題だ。小笠原とお菓子、この2択だと勝つのは圧倒的にお菓子の方だった。キタンたちもいるわけだし。

 そしてオレは一番後ろの席のど真ん中に座って、ちょっと遠慮がちに(キシモトにばれないよう)お菓子を食べながら作文を書き始めた。

 バスにはこの後2時間近く乗らないといけないようなので、最初は皆で『あいうえお作文』を書いて遊んでいた。
 10分もしないうちにクリちゃんが「何か気持ち悪い」と言って離脱した。確かに後ろの席で小さな文字を書いたり読んだりするのはちょっと頭が痛くなる。オレたちは小6なので、そもそもがまだ乗り物自体に不慣れなのだ。
 その後、5分もしないうちにキタンも気持ち悪いと離脱して、オレは仕方なく、本腰を入れて作文を書き始めた。真面目に書き始めると、オレも気持ちが悪くなった気がした。

 作文自体はすぐに書けたのだが、顔をあげた瞬間に気持ち悪さが一気にこみあげてきて、口の中の唾液がとめどなく溢れてくるのが分かった。

 『ヤバい!』という心の叫びと
 「バケツ!」という実際の叫びが同時だった。

 しかし、クラスの対応もキシモトの対応も遅すぎた。
 「誰や~、今のヤツ?」はキシモト。
 「大丈夫?」「吐きそうなん?」は女子。
 「横っちちゃうん?」「情けな!」が男子。

 それを無意識に聞きながら、オレはもうバケツは待っていられないと思った。
 唾液が一瞬止まって、酸っぱい胃液が湧きあがってきたのを感じたのだ。吐くのは確実、あとはどこに吐くかだった。

 一番窓際にブーヤンがいた。
 オレはブーヤンのリュックを奪って開けようとした。バケツがないならどんな袋でもいいのだ。
 でも自分のバッグは嫌だから、人のものに吐く。当然の行動だ。

 ブーヤンは危険を察してリュックを死守した。そして窓を全開にした。
 『ほら!ここや!』とばかりに指をさす。オレに選択権はなかった。

 かくしてオレは修学旅行初日のバスで、後部座席から首を突き出して盛大にゲロをぶちまけたのだった。

 不運だったのは、オレたち3組のバスが先頭を走っていて、後に2台続いていたため、風に乗ってなびいたオレのゲロを見た他のクラスの生徒たちが、続々ともらいゲロをしたことだろう。
 もっと言えば、直後に走っていたサトチンたちのいる2組のバスはフロントガラスにオレのゲロがいっぱいついてしまい、あわやスリップするところだったらしい。

 ともあれ、大惨事は免れたものの、オレの修学旅行は前途多難な幕開けとなったのだった・・・

いつか投稿がたまったら電子書籍化したいなあ。どなたかにイラストか題字など提供していただけたら、めちゃくちゃ嬉しいな。note始めてよかったって思いたい!!