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パスカル・ブリッソン監督 「GOGO 94歳の小学生」から見えてくる教育の意義

2021年初の映画館始めは,サツゲキにて「GOGO 94歳の小学生」であった。
アフリカのケニアで暮らすプラシラ・ステナイ、通称ゴゴは、子ども3人、孫が22人、ひ孫が52人いるおばあちゃんだ。彼女が子どもの頃は、女性が学校に行く時代ではなく、教育よりも労働が優先され、牛の世話に明け暮れる日々であった。結婚した夫は独立戦争で死亡。齢94だが、身体は元気で、まちの人気者だ。自身が学校に通うことができなかったこともあり、一念発起して小学校に通うことを決意する。いろんな学校に打診して断られたが、リーダーズ・ビジョン学校の校長だけがゴゴの入学を許可してくれた。

指定のグリーンの制服を着用し、寄宿舎に寝泊まりし、ひ孫たちと一緒のクラスメイトに混ざって算数や英語を学ぶ日が始まる。ゴゴは一週間の修学旅行に参加。ワクワクしながら荷造りをし、サバンナを進むスクールバスの車窓に映るライオンやキリンに歓声を上げ、子どもたちにおとぎ話を聞かせ、子どもたちと寝食を共にする。新しく完成した寄宿舎には自分の名前が冠され、竣工式が盛大に催されるなど、太陽の光が降り注ぐ緑豊かなケニアの自然をバックに、ゴゴの充実したスクールライフが営まれる。目指すは小学校の卒業試験だ。

だが、94歳の老体に鞭を打って勉学に励むには、彼女の視力は衰えすぎていた。すでに目の片方は見えなくなり、唯一見える目もぼやけて、テストの答案を読むのも一苦労。結局、ゴゴは卒業試験に落ちてしまい、ひ孫がまた一緒に学校に通おうと必死に説得するも、「もう学校には戻らない」と弱気にふさぎ込んで諦めてしまう。
 
そこに、校長がゴゴの家を訪ねてやってくる。
「ゴゴがいないとみんなが悲しむ」
「自分が頑張っている姿を子どもたちに見せよう」
「私がいい目医者を必ず探すから」とゴゴに約束する。

ゴゴは目の手術を受けて視力を取り戻し、再び学校にチャレンジする。

なんとパワフルで勇敢な行動力!そして、いつも笑顔でゴゴを優しく見まもる校長の姿から、そのすばらしい人徳が伝わってきて、大きな感銘を受けた。

つくづく思ったのは、学校という場の意義だ。コロナ禍で昨年春から日本では一時的に学校が休校となり、大学は今もオンライン授業が続いている。単にドリルを反復してテストの点を上げるだけなら、オンラインでも対応可能だろう。だが、学校で学ぶ意義は、共通の場所に通って学ぶことによって、クラスメイトから様々な刺激を受け、友情や摩擦など人間関係を通して魂を成長させることにあるのだと思う。

教室で、90歳近くも年上で体格も大きなクラスメイトが教室で必死に学ぶ姿から子どもたちが受ける刺激は、大変有意義なものとなるに違いない。こういうのをオンラインの映像授業で学ぶことは不可能だ。つまり、一つの場所で多様なメンバーと共に学ぶ経験が重要になってくる。将来、ゴゴと一緒に学んだ子どもたちが、多様な立場を越えて、争いや差別のないアフリカの礎を築く人材となったなら、本当に喜ばしいことだ。

貧困や制度の問題で、若くに妊娠して学校を中退してしまう女性はアフリカでは(先進国でも)少なくない。だがゴゴは、どんなことがあっても学校を辞めてはいけない、と若い世代の子にむけて必死に訴える。新寄宿舎の竣工パーティで「知識は力です」と力強く演説するゴゴの言葉は、映画では描かれていない、おそらくは苦難に満ちた94年間の経験に裏打ちされた本音なのだろう。

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