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武正晴監督『アンダードッグ』


『アンダードッグ』をサツゲキにて鑑賞した。いやー面白かった♪
名作『百円の恋』『愛妻物語』の足立紳脚本、武正晴監督のコンビときたらそりゃあ見逃すわけにはいかない。前編・後編で合計5時間近くある大作で、しかもあまり体調が良いとはいえないコンディションだったので、とりあえず様子見のような気持ちで前編を観たら、一挙にのめりこんだ。前編終了後、すぐに後編のチケットを購入し、一日で全て見た。素晴らしかった。

うだつの上がらない元チャンピオンの中年ボクサー末永晃(森山未來)は、デリヘルの運転手を務めながら,世界チャンピオンになる夢を捨て切れておらず、「咬ませ犬」としてリングに立ち続けている。そんな晃に、ぱっとしないお笑い芸人宮木瞬(勝地涼)がバラエティ番組の企画でボクシングを始め、試合を申し込んでくる。晃の所属する簑島ジムには、新人ボクサーの大村龍太(北村匠海)が晃の練習を冷やかしにやってくる。龍太は児童養護施設で育ち、チンピラとして暴力沙汰を起こしていたことからある事件に巻き込まれることになる。
やがて3人は運命に導かれるように、リングで死闘を迎えることとなる・・・。

面白いのは三者三様の家族構造だ。
晃は別れた奥さんと子どもに未練を残しつつも、シングルマザーのデリヘル嬢、明美にも心惹かれている。家には、競艇を観るのが楽しみな年老いた父親との二人暮らしである。
宮木は交際中の女性がおり、宮木を献身的に支えている。龍太はちょうど愛妻が出産を迎える所だ。ちょうど、家族という形の過去、現在、未来をそのまま体現している。

晃は、宮木と龍太に立ちはだかる「壁」として、二人の挑戦を受ける立場でありながらも、練習も煮え切らず中途半端で、息子の太郎に励まされるも、どこか諦めのような気持ちが混じっている(晃がスマホではなくガラケーを使用しているにも、彼の情報に対するスタンスが現れている)。龍太は明美の常連客だった男をボコボコにした恨みを買い、大けがを負う。明美も一人娘を虐待し、結局は警察に逮捕される。晃が働くデリヘルの経営者も、嬢が引き抜かれて経営が火の車に陥っている。だれもが「底辺」で生きる意義に葛藤し、自らの存在に価値を見いだそうともがき苦しんでいる。その辺のドラマがなんとも痛々しくて切ない。

圧巻なのがボクシングの試合だ。汗と血がリング上を飛び交い、したたり落ちる。ボクシングなんて興味のないとか、格闘技は嫌いなという人にこそ観て欲しい。覚悟を持って闘う人間の気迫あふれる姿に震撼するはずだ。
主題歌の石崎ひゅーいの「Flowers」のメロディと肉声がエンドロールで心に食い込んでくる。これが映画の世界観に実にピッタリで一段と深い余韻が心にじわじわとしみ渡る。​


また、前編で晃がリングに登場するテーマ曲がCHAGE&ASKAの「モーニングムーン」なのが心憎い!ASKAが事件を起こしたが、チャゲアスの楽曲がもっと使われて欲しいのも、一ファンとしての願いである。

自身をモデルにした足立紳監督『喜劇 愛妻物語』は、てんでダメな脚本家が主人公だが、その脚本家がとんでもない変貌を遂げている。その辺も合わせて観るとより面白い。子役の新津ちせも両方でいい演技を見せている。

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