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風景写真の撮り方

──今回はマドレーヌさんのリクエストに応えていただきましょう。「マコトさんのアップする写真が気になっている。どんな風に撮って&加工したら、あんな風な写真になるのかなぁ」

横道 写真を撮るのに凝っていた時期がありました。

──過去形ということは、いまはそうではないということですよね?

横道 インスタグラムがいちばんブームだった頃、私もハマっていたんです。

──「インスタ映え」がユーキャン新語・流行語大賞に選ばれたのは、2017年の末ですね。
 横道さんって、流行に乗ることもあるんですね。

横道 いろんな偶然からインスタグラムをやることになったんです。じぶんのコレクションを投稿することが多かったのですが、そういうのばかりだとインドア的で息が詰まるので、アウトドア的なものもときどき投稿しました。おおむね風景写真です。

──なるほど。

横道 そのときの写真はインスタグラム上に残っていますが、2018年にはもうこのSNSに飽きていて、それから写真はほとんど撮っていません。

──いかにもADHDという飽きっぽさですね。
 撮影には本格的なカメラを使っていたんですか。

横道 いえ、iPhoneです。iPhoneは購入するたびに、その時点から1〜2年前に発売されたモデルを選んでいます。とくに高機能なカメラがついたやつではありません。

──加工はどうやってるんですか。

横道 かんたんです。AppStoreから人気のある写真加工用アプリを3種類くらいダウンロードして、それで撮影した写真をあれこれといじってみる。そのうちに、「このコレクションや風景について、私が感じている感覚や感情を取りこんだ加工は、これだ」と判断できたら、それで完成になります。

──主観的な感覚や感情を加工に反映させるんですね。

横道 写真を撮る行為は、そのときの情動や感動を画像として定着する行為だと思っています。しかし時間を少しおいてその写真を見ると、「私のあのときの体験世界とこの画像はズレている」と感じることが多いのです。

──手動の加工によって、そのズレを埋めるということですか。

横道 典型的には、私には感覚過敏があるので、「まぶしい!」とか「うるさい!」とかと感じやすいのです。自閉スペクトラム症のこだわりも強いので、「この空や川の青色は最高だ!と」思うときも多いです。写真からは、たいていの場合、それらの心の強い動きが脱落してしまいます。

──映像ではダメなんですか。

横道 映像ではなおさら脱落します。映像だと動きが加わりますから、含まれた情報がより複雑になります。その複雑さの個々の細部がささくれだつようにして、映像は私が体験した時空から乖離してしまいます。

──じゃあ静止画像のほうがましなんですね。

横道 いちばん良いのは文章だけにすることかもしれませんが、簡単におわかりのとおり、私自身にとって文章で的確に表現できていると感じられても、他者にとっては写真のあるほうが圧倒的にイメージしやすいということが多いです。

──写真を撮るのは楽しかったですか。

横道 発達障害者らしい過集中か、依存症的なのめりこみかはわかりませんが、写真に夢中だった頃は幸せでしたね。いくらでも撮って加工していたかった。ただ、ものすごい時間泥棒だったので、いまはハマってなくてありがたいです。
 短期間のうちにフォロワーが何千人も増えて、正体不明のインスタグラマーとしてなかなかの人気者だったんですよ。

──好きな風景はどんなものですか。

横道 「セルフインタビュー」のバナーに使っているのは、京都の賀茂川です。勤め先の大学のすぐ横にあります。

賀茂川

──きれいな青色ですね。

横道 私にとっては理想的な青色です。

──画質が荒れているのはOKなんですか。

横道 私はしょっちゅう五感が飽和状態になって、感覚世界がきれぎれになるんです。それを表現したいと感じることが多いです。

──「われらの希死念慮を生きのびるための映画を教えよ」のバナーも同じ川ですか。

高野川

横道 これは高野川です。賀茂川と高野川が出町柳のあたりで合流して、鴨川になります。その合流地点の少し北ですね。

──ところどころが赤く光っているのはなんですか。

横道 怪異現象のことを日常的に考えていたので、その心境を反映したかったんですよ。

──お持ちの写真を、ほかにもいろいろ見せてください。こちらも川ですね。

出町柳

横道 川が好きなんです。アーネスト・ヘミングウェイの短編小説「心臓の二つある大きな川」(二部作)は魂の書と言って良い作品群に属します。
 さておき、これは出町柳のあたりですね。人がたくさんいます。なんとなく気に入らなくてインスタグラムに投稿しなかったのですが、いま見ると悪くないような気もします。

──やはり画質が荒れている印象ですね。

横道 当時の私は、画質が荒れて寂れた印象になっていないと、じぶんの「作品」としてふさわしくないと思っていたふしすらあります。

──作品ですか!

横道 もちろんじぶんにプロの腕前があるなんて、いっさい思っていなかったですよ、あくまでアマチュア写真家の「作品」ということですね。

──こちらはどのあたりですか。桜が咲いていて、夜の景観で、幽玄ですね。

琵琶湖疏水

横道 これは琵琶湖疏水ですね。岡崎のあたり。平安神宮、京都府立図書館、京都市動物園などがある地区の少し南。桜が咲きほこっていて、船がゆっくり進んでいく。よい景色でした。

──現物はこんなに極美の風景ではなかったんですよね?

横道 もちろんそうです。もっと地味な光景でしたよ。この写真は私の感覚や感情を反映しているというよりも、「こんな風景だったら良いのにな」という願望みたいなものですね。フィクション的すぎて投稿するのをためらったのですが、「たまにはこういうのも良いかなと」と思いました。

──こちらは? なんとなく不気味な雰囲気ですね。沼ですか。

深泥池

横道 これは勤め先の少し北にある深泥池(みどろがいけ)です。ここの生物群集全体は、国の天然記念物なんです。
 しかし一般的には、京都屈指の心霊スポットとして有名ですね。

──写真のふちのあたりが黒くなっているのが、雰囲気を高めていますね。

横道 ベタで単純な加工ですが、やっていて楽しかったのを覚えています(笑)。

──ここはどういう理由で、オカルト風味の土地になったんですか。

横道 昭和44年(1969年)、土砂降りの雨の日に京都病院前でタクシーを拾った女性がいたそうです。その女性はずぶ濡れになっていて、長い髪から水がしたたっていた。女は運転手にそこから北上して、深泥池まで行ってくれと伝えたんです。
 しかし、そのあと奇怪な状況になってしまう。深泥池に到着したので、運転手が後部座席を見たのですが、もはやそこに女はいなくなっていて、座席は雨でぐっしょり濡れていた。運転手は交番に駆けこんで、警察が捜査を始めたのですが、それでわかったのは、じつはその雨の夜、深泥池に住んでいた女性が京大病院で亡くなっていたということだった。

──怖いですね……。

横道 「タクシー怪談」として全国的に有名なものですね。私は以前、京都の岩倉地区に住んでいて、出勤するたびにバスはこの深泥池のかたわらを通りすぎて南下しました。見るたびに不気味な印象だったというわけでもないですが、雨の日や夜の時間帯は、やはりなんとなく寒気がするような気がしました。

──私も訪れてみようかな。


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