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贅沢なリクエスト集

──今回は代麻理子さんのリクエスト集に答えていただきましょう。まずはひとつめから。

横道 はい。

──「横道さんの中で、「これを読むと笑える」というものはありますか?(私が活字専門なため読みものに限ってしまい恐縮ですが、私は昔はゲッツ板谷さんの『板谷バカ三代』は読むたびに笑える好きな作品でした。みうらじゅんとリリー・フランキーの『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』も同じように好きで何度も読みました。最近では、横道さんのセルフインタビューが読むたびくすっとできる好きな読みものです)」

横道 セルフインタビューを楽しみにしてくださってありがたいことです。

──この「セルフインタビュー」、わーっと更新しまくっていた時期のあとに、なかなか更新しなくなりましたが、ADHDの問題でしょうか。つまりもう飽きたということですか。

横道 そうではありません。毎日ばりばり書きまくらなければいけない状況になったんです。新しく書かなければならない原稿が続々と押しよせてきているところです。

──そうなんですね。それで話を戻しますが、横道さんがいつ読んでも笑えるという本はありますか。

横道 そういう本を長年ずっと求めてきたのですが、結論としては、じぶんで書いた文章が私にはいちばんおもしろいのです。じぶんの笑いのツボを押さえながら書けるわけですから。

──じゃあ代さんが横道さんのセルフインタビューを笑って楽しんでるのと同じように、横道さんにとっても、このセルフインタビューが笑えて楽しいものなんですね。

横道 そういうことです。ほかの人から「爆笑した」という感想は聞きませんが、私にはとてもおもしろいです。

──ちなみにご自身の本以外では、どういうのがお好きですか。

横道 大雑把に言えばサブカル系のエッセイが多いですね。ですから代さんの趣味とまあまあ近いあたりです。あとはマンガです。私はNo Manga, No Lifeです。

──それは良かったです。
 ではつぎのリクエストに行きます。「大きくなったら何になりたかったですか?(悲惨な過去を思い出させてしまうかもしれませんが、そうした時にも未来を思い描けたりしていたか。ちなみに私は、小学生の頃は小学校の先生、中学生の頃はFBIの心理捜査官(当時は、『24人のビリー・ミリガン』のダニエル・キイスや『ITと呼ばれた子』などを愛読していたので、ダニエル・キイスに関する記載が登場したのも横道さんの本を読んでの驚きでした)、留学を経て米国で暮らすのはそれはそれで大変と気づき、帰国後は弁護士になりたかったです。)」

横道 なるほど、ダニエル・キイスは私も好きでした。『ひとつにならない──発達障害者がセックスについて語ること』(イースト・プレス)に書いたように、『24人のビリー・ミリガン』とか『五番目のサリー』で語られたような多重人格について、私は実在の精神疾患だと信じていませんでした。いまは多重人格者の知りあいが何人もいますけれども。
 キイスの小説でとても好きだったのは、ベタな回答ですが『アルジャーノンに花束を』です。「お涙頂戴もの」と言われたりして、まともな文学好きからバカにされることが多いですが、私は「天才なのかバカなのか」という印象を与えることが多かったので、「高知能と低知能の交錯」というテーマが他人事と思えなかったのです。

──なるほど。それで、大きくなったら、何になりたかったのでしょう?

横道 学者か画家かマンガ家です。学者になるなら、ファーブルみたいな人生を送りたいと思っていました。画家になれたら、ピカソかゴッホみたいな絵を描きたいと思っていました。マンガ家で憧れている人は多すぎるので、かんたんにはまとめられません。

──そのうち、学者になる夢がかなったわけですね。

横道 はい。ですから来世ではマンガ家をめざすことにします。

──来世というものを信じているんですね?

横道 信じていません。

──ありがとうございます。
 それではつぎのリクエストです。「悲しくなった時は何をしますか?(自分を少しコントロールできるようになってからの私は入眠剤を飲んで寝ます。そうなるまでは、悲しみが強化されるような本や映画を観ていました。アンジェリーナ・ジョリー主演の『GIA』は泣きたい時にはおすすめです。カメラマンが言う「You don't have to be perfect」にぼろぼろ泣けます。他にも、『17歳のカルテ』も何度も観た一作です)」

横道 『GIA』と『17歳のカルテ』。観よう、観ようと思いつつ、結局そのままになっている作品たちです。

──どちらもアンジェリーナ・ジョリーが活躍しているようですね。

横道 悲しくなったときには、やはり映画を観るか、音楽を聴くか、詩を読むかが多いですね。悲しい気分が高まるものを選びます。

──悲しい気分のときには、悲しい音楽が効くっていいますもんね。

横道 はい。とはいえ、私は人生のたいていの時間を悲しい気分で生きつづけているので、ふだんから摂取する映画、音楽、小説などは、だいたい悲しい内容のものばかりです。明るい作品を観たり、聴いたり、読んだりしたら、悲しさを通りこして不幸を感じてしまいます。

──なるほど。
 ではつぎのリクエストです。「横道さんはいろんな言語を学習してきたと見受けましたが、専門的に研究してきたドイツ語を含め、この言語のこの言葉にはしびれた、という言葉はありますか?(私は日本語の他は英語少々だけで、他言語には親しまずにきてしまいましたが、「言葉」や音や意味は好きなので、もしあれば知りたいです)」

横道 いろんな言語に、「その言語にしかなさそうな特別な表現」があります。そういうのに出会うと、感動します。創元社から出ている『翻訳できない世界のことば』には、いろんな例が集められています。

──たとえば?

横道 日本語だと「木漏れ日」。「積ん読」なんかもそうでしょうね。

──なるほど、木々の隙間から漏れてくる光は、よく考えると、たしかにマニアックですね。外国人だったら、そんなマニアックな事象のために専用の単語が必要なのか? と疑問に思いそうです。「積ん読」も、それが読書の選択肢のひとつということにされているのが、不思議ですもんね。

横道 あとは、やはり言語ごとの音色の楽しみ。言語それぞれで、よく使われる音が違いますから、印象がだいぶ異ってきます。

──そういうもんですか。

横道 慣れると、気づかなくなりますけどね。たとえば日本語とか英語の響きの特殊性って、あんまりわからないでしょう? 
 でも、習い始めだと気になると思いますよ。私の場合だと、中国語を勉強しはじめたときに、「シ」とか「チ」とかの音が多いなと感じました。欧米で中国人をバカにするときの「チンチャンチョン」という表現も、中国語にそういう音の印象があるもいうことから来ています。
 韓国語を勉強しはじめたとき、日本語での「ア行」だけでなく、「ヤ行」と「ワ行」も母音とされているのを知って、「だから韓国語を聞くと、「ヤ行」や「ワ行」の音が多いと感じるのか!」と驚きました。

──そういうことなんですね。

横道 基本的に私はヨーロッパ系の言語のほうが詳しいですが、話が長くなるので、今回はやめておきましょう。

──ではつぎのリクエストです。「ChatGPTの記載もおもしろかったです。ASDはChatGPT的(AI的)な応対を得意とする、といったようなことを耳にした記憶があるのですが(そのことを思い出してはニヤニヤしてしまいます。笑 ここは割愛して構いません)、横道さんはそれでも「人」が好きですか?」

横道 ChatGPT云々は、以前のセルフインタビューのことですね(https://note.com/makotoyokomichi/n/nd08b2b1cce1b)。

──横道さんは次世代のChatGPTみたいな存在になっていければ良いと語っていました。

横道 そんなこと言いましたっけ? 言ったとしたら、気の迷いだったと思います。でも発達障害者は実際、定型発達者との会話でも、発達障害者同士の会話でもトラブルになりがちだから、AIからていねいな語り口から学ぶことは有益でしょうね。

──それって、なんででしょうね。

横道 それとは?

──発達障害者と定型発達者の会話がうまくいかないのは、わかります。感じ方がかなり違うから、考え方も掛けはなれたものになりがちです。でも発達障害者同士だったら、似たところが多いですよね? もっと意気投合しやすくてもいいのに。

横道 一口に定型発達者と言っても、実際には千差万別ですから。それと同じで、発達障害者も千差万別です。定型発達者同士でも殺しあったり、戦争しあったりするでしょう。発達障害者同士でも同じです。

──ふむふむ。

横道 あと、それぞれの発達障害者は「このくらい普通であるべき」とか「このくらい我が道を行くべき」とかの方針にかなり差があります。とりあえず「定型発達という物差し」があるわけですが、どのくらいそれに合わせるべきか、どのくらい無視すべきかの判断が人それぞれで違ってくる。結果、「このくらい定型発達ぶりっ子するべき」とか「このくらい発達障害者としての素のままを貫くべき」とかの信念が、人それぞれに食いちがっている。もともとお互いに似ているだけに、細かな違いが目についてイライラしあうことも多くなる。

──なるほど。
 話が横道に逸れてしまいましたが、それで結局、横道さんは「人」が好きなんですか。

横道 人類に対しては、絶望と希望の両方を感じています。
 しかし近年の猛暑に関してはひたすら絶望だけを感じています。きょうツイッターで見たんですが、昭和25年、つまり1950年に当時の雑誌付録か何かのなかで、子どもたちが会話している箇所の画像がありました。「そうだ、八月は、一年中でも一番あついんだ、東京では二十六度近くあるよ。」「ほんとだね。今どのくらい......。」「今、五月だから、十七度暗いだね、六月になると、もう二十一度ぐら(略)」

──ありがとうございます。
 では、つぎのリクエストに行きますね。「ウォーキングしながらラジオを聴いていると読みました。どんなラジオを聴いていますか? (私は歩きながらは音楽を聴いています。繰り返し、ひたすら同じ曲を聴くので、それも特性的なんだということを横道さんの本から知って驚きました」。まだ代さんの文面は続くのですが、一度ここで切ります。

横道 そうですね。音楽番組が多いです。クラシック、ジャズ、Jポップ、洋楽、アニソン、なんでも聴きますよ。ラジオ関西でサイケデリック・ロック専門の「サイケトリップストリート」というのがあって、それがいちばんお気に入りの番組です。

──散歩しながら音楽のみは聴かないのでしょうか。

横道 いえ、よく聴きますよ。私はふだん生活していて、音楽を聴いていない時間は、ほとんど寝るときだけと言っても良いです。

──何をいちばん聴きますか。

横道 いちばん聴くのは昭和歌謡です。むかしはたんに「歌謡曲」と言われていたやつ。昭和時代のJ-Popです。

──ありがとうございました。
 では代さんのさっきのリクエストの文面、続きの部分です。「ここからは運動に関するスーパー余談な補足です。私も極めて運動音痴なんですが、筋トレのトレーナーの先生に、「運動音痴と思っている人はその多くが誤解のことが多い。運動もいろんな要素に分解される。道具を使う要素(球技など)や、筋肉を動かすこと、動作を模倣することなど(他にも要素があったけど忘れました)。まりさんは動きを模倣するのは上手です」と言われ、瞬発力が求められる動きは苦手だけど、ロボット的なところがあるからゆっくりだったら動作のコピーは得意なんだ!と発見で、コピー&doが筋トレの楽しいところです。笑)」

横道 なるほど、勉強になりました。

──横道さんもコピーするのは得意ですよね?

横道 そうですね。モノマネとかそういうのは得意です。そのうち著書でパスティーシュ(文体模写)にも挑戦してみたいですね。

──運動も模倣だっていうことらしいですよ。

横道 来世でがんばりたいと思います。

──来世というものを信じているんですね?

横道 信じている、といまは言っておくことにしましょう。

【追記】ツイッターを改めて見ていて、26度というのは当時の8月の一日の平均気温だという指摘を発見しました。当時も一日の最高気温は34度くらいだったようです。それでも現在よりだいぶマシですが。


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