現代写真備忘録 〜非常勤講師の時に心がけていたことと今〜

最近、なぜ表現として写真作品を作るのかを認識するため、私自身がやってきたことを掘り起こそうとしています。
院生の頃に、私は2つの専門学校の非常勤講師で公衆衛生学を担当していました。
非常勤講師の時にできた

「伝えること・繋がりを持ってもらうこと」

という経験が今の制作の原点になっています。

ここではその当時感じたことや、現在の私の考えを書いていきます。


<生徒ではなく学生>

教えているのではなく、分かって頂くための講義を。
生徒は基本的には義務教育を受けている人であり、教えられる知識について、自身の判断に基づく取捨選択をしない。その代わり先生にはしっかり教える責任がある。
学生は、能動的に学習するという選択をした人であり、流れてくる知識を取捨選択する。自ら考え講義を聞くも聞かないも学生に委ねられているので、先生には責任がない。

これは研究室の教授に、初めて講義の資料を作った際に言われた言葉です。
責任が全くないとは思いませんが、私も大学に通っている時、学生のつもりが生徒になっていたことがあったことを思い出しました。

専門学校や大学で、講義を聞かないことを怒る先生がいるとすれば、それは学生を生徒だと思っているのでしょう。分かって頂くためには、様々な工夫が必要です。その時の試行錯誤がより深い物事への理解に繋がり、相手にも伝わります。

作品においてもそうですが、特にステートメントに該当するのではないでしょうか。作家の主張を押し付けたところでそれで終わりです。
鑑賞者は能動的に作品を見に来ているので、どう見られるか・何を感じ取るかは鑑賞者の自由です。
想定しつつも文字にはせず客観的に見せることで、鑑賞者に思考して頂くことが大事なのかも知れません。


<学生の講義中の態度や顔は、学生に向けている自身の顔>

あなたの教えているクラス、あいつら全然聞いてないでしょ。
ほとんど寝てるから、注意する気もないけどね。
この前〇〇は化粧してたよ

休憩時間こういう言葉を講師部屋でよく耳にしました。
私は、学生のそういった姿が見えたのなら、自分自身が講義をする上でどのような思いで向かっているのかを確認した方がいいと思っています。

講師として学生に投資するだけ、学生も講義やテストに臨んでくれます。
色々な方法で、聞きたくなる・講義に参加したくなるように心を動かすことが大事だと感じています。

作品に対する鑑賞者のリアクションも鏡となっていることがあります。
その反応で展示した作品を変える訳ではありませんが、展示方法やステートメント、様々なことについて再度見つめることは必要だと思います。
(そういったことがないように、展示プランやステートメントを練りに練るのですけど。準備不足な部分が見透かされることもあれば、言わんとしていることを的確にコメントして頂けることもあると思います。)


<教科書に書いてあることは一人でもできる。他の見方を取り入れなさい。>

国家試験などの対策講義なら教科書を忠実に伝える必要があります。しかし、教科書に書いてある過去のことばかりでは、試験に通過できても記憶には残らず役に立ちません。現在起きていることや身の回りのことに紐付けて伝えることが必要だと思います。
確かに物事の歴史的な流れや、ある考えが広まった時代背景を知ることで、どういったことに基づいているかを把握することができるため重要です。
ただ、自分自身と繋がりを見出せないと押し付けられていることだと認識し、自分には関係ないと思い頭に入らなくなります。逆にほんの少しでも該当していることが分かると、その知識や概念は記憶に深く定着するのです。

作品でも、鑑賞者が繋がり(社会性)を持つことができなければ、それは自己満足で終わり、周りを拒絶していることになってしまいます。これは作品自体に限らず、ステートメントにもよく現れるので常に気を付けなければなりません。(自分への戒めです。)

<人に自分が学んだことを教えるには何倍も勉強しないといけない>

学生さんに分かって頂くためには、門外漢の人間が聞いてもわかる講義にしないといけない。具体的には、理科がわかる小学生高学年〜中学生がわかる内容。
専門用語を使わずに伝えるには、本当に分かってないと無理。
10のことを勉強しても、その時点で伝えられるのは3くらい。
伝える・教えるとはそういうこと。
講義資料作り直し。

今でも実践が難しいことですが、当時は教科書を飛び出す勇気も方法も知らなかったので、作り直す時には苦労した記憶があります。
講義で準備不足の部分があると、口調が説明的になり専門用語を多用するようになり、学生から講義後にわからないと言われたこともありました。

作品制作をしていく上でも非常に重要なことであり、第一線で走られているアーティストの方々は勉強し、自分自身と作品と対面し続けているのだと思います。

表現とは鑑賞者や社会と繋がりを持つことではないでしょうか。
そのためには、接続するための自身の表現スタイルや内容、概念などをしっかり把握しなければなりません。


以上が、現在の私に影響を及ぼしている非常勤講師の時の体験です。
これからも立ち返るべき場所のような気がしています。

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