触感は実感につながっている
今日は『触楽入門 -はじめて世界に触れるときのように-』(著:テクタイル)から「麻酔をした指で卵をつかんでみよう」を読みました。
昨日は「皮膚は何を感じとっているのか?」という問いにふれました。視覚は光を、聴覚は音を感じとっている。それでは触覚は?というわけです。
皮膚(触覚)が感じとっているのは「細胞の変形」でした。指先でザラザラしたモノを押すと、モノの表面にある凹凸にそって皮膚が変形しています。皮膚の変形が触覚を通して感覚神経を伝わり「ザラザラ」という触感を生成しているのです。
そして、ザラザラ(凹凸による圧覚)や、ツルツルなど様々な触感が存在するわけですが、一つの触覚センサーが全ての触感のもとになっているのではなく、複数のセンサーが役割分担をして触感を生成しているのでした。
たとえば、ザラザラの元となる押されている感覚(圧覚)を担うのは「メルケル細胞」で、ツルツルの元となる「すべり」の感覚を担うのは「マイスナー小体」という触覚センサーです。
「では、もし触覚センサーが働かなくなったとしたら何が起きるだろう?」というのが本節の問題意識になっています。
「ふれている」という触感の正体は電気的な信号の伝達
著者は触覚センサーの働きを阻害する事例として「麻酔」を取り上げます。
触覚センサーから何かしらの信号が発信されていて、その信号が感覚神経を伝わることで「触感」が生成されている。情報伝達を麻酔が阻害することで感覚がなくなるのですね。
では、感覚神経を伝わる「信号」の正体は具体的にどのようなものなのでしょうか。どのような仕組みで情報が伝わるのでしょうか。
細胞の表面にイオンチャネルという孔(あな)が空いていて、そこを何かが通るイメージを持つことができます。何がイオンチャネルを通っているのでしょうか。
イオンチャネルを通過しているのは「イオン」と呼ばれる電気を帯びた分子でした。イオンチャネルは「イオン+チャネル(経路)」ですから文字通りイオンの通り道ですね。
イオンの出入りが細胞の電気的なプラスマイナス、つまり電気のエネルギー状態(=電位)を変化させている。その電位の変化が感覚神経を伝わって、「何かに触れている」という触感が生成されている。つまり、電気的な信号が「触れている」という情報に変換されているようです。
身体を通して、自分をとりまく環境とつながっている感覚が生まれる源泉に触れたことで、ほんの心なしか自分と環境のつながりが深くなったように感じます。
触感は実感につながっている
著者は、麻酔薬の仕組みについて次のように解説しています。
なるほど。麻酔はイオンチャネルをふさいでしまうから電気的なエネルギー状態が変化せず、「何かに触れている」という触感が生まれないのですね。
もし触感がなくなってしまったらどうなるのでしょうか。著者は次のように紹介しています。
握っている様子は目で見えているのに握っている感覚がない。はたして自分はモノを持っているのか、持っていないのか実感がわかない。これはとても不安だと思いました。
コップに注がれた飲み物を飲みたいとき、「こぼさないように上手く飲めるかな」とか「コップを落としてしまわないかな」と不安な気持ちになるかもしれません。
あるいは、ペンを持って文字を書きたいとき。筆圧を感じられないとしたら上手く文字が書けなくて困ってしまう。もどかしい気持ちになってしまうかもしれません。
そう考えてみると、触感というのは「自分が思うとおりに、期待するとおりに身体が動いている」という実感につながっているのだと思います。触感と実感の間にある深い関係性。
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