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複雑な物事の振る舞いは劇的に変化する〜閾値と非線形性〜

「ある日、気づけば超えてはいけない一線を超えていた…」という経験はないでしょうか。

書籍『レジリエンスとは何か』で、複雑なシステムの代表例である生態系の振る舞い(挙動)が、ある閾値(境界)を超えると劇的に変わると紹介されています。

閾値を超えるまでは、システムの振る舞いの変化は「緩やか」であるため、変化に気付きにくいけれど、閾値を超えると振る舞いが「劇的に」変化するということは、つまり変化が直線的ではない(非線形)であることを意味します。

自分事として、たとえば「睡眠不足」を想像してみます。必要な睡眠時間に比べて睡眠時間が不足している場合、(本当は影響が大きいにもかかわらず)最初の数日は影響が出ているとは感じにくいかもしれません。

実際には「睡眠負債」という概念があり、わずかな睡眠不足が積み重なって債務超過の状態に陥ると、生活や仕事の質が低下するだけでなく、うつ病、がん、認知症などの疾病に繋がる恐れがあるとされています(Wikipedia)。

債務超過の状態に陥るとはつまり、超えてはいけない一線を超える(超過)ことですので、これも「身体」という複雑なシステムの振る舞いが「閾値」を超えると劇的に変わることを示唆しています。

睡眠負債を解消する根本的な方法は「不足している睡眠時間を増やすこと」ですが、週末などに「寝だめ」をするのは、日常の生活リズムを崩すことになり、逆効果となる場合もあるとされます。

つまり、日々の変動(Volatility)を抑えること、「よい習慣を作ること」「日々メンテナンスすること」によって複雑なシステムの振る舞いが安定し、ある日突然崩壊するリスクを抑えることにつながります。

日常生活に広げてみると、たとえば毎日乗っている「電車」があたり前のように運行しているのも、私たちに見えないところで日々メンテナンスに従事して頂いている方々のご尽力の賜物です。

人間関係も同じだと思います。日々のやり取りの中で、ささいな変化にも気づき、気にかけ、時に働きかける(言葉をかけるなど)ことを通じて、ある日突然、相手(もしくは自分自身)との関係が崩壊する可能性を抑えることができる。

複雑なものが「何事もなく変わらずに」動いていると感じるときこそ、「じつは何か損なわれていることはないだろうか?」という問いを投げかけることが大切なように思うのです。

生態系のシステムには、「閾値」と「非線形的な性質」という特徴があります。閾値を超えると、システムの挙動パターンが突如変化してしまうのです。

枝廣淳子『レジリエンスとは何か』

たとえば、土壌が雨や雪、流水や風の作用によって、地表から流出・飛散してしまい、土地が荒廃する現象を「土壌侵食」と呼びますが、この土壌侵食が進むと、植物が育つための土がなくなってしまうため、作物ができなくなります。土壌侵食は徐々に進行します。雨が降るたび、風が吹くたび、少しずつ表土が減っていきます。しかし、残った表土が作物の根の部分よりも表土が薄くなってしまうと、とたんに作物が育たなくなり、表土を押さえる役割も果たしていた植物の被覆がなくなることで、あっという間に砂漠化してしまいます。この場合の「閾値」は、作物の根の深さに対する表土の厚さです。表土の厚さがその閾値を下回ると、それまでの挙動パターンが突如大きく変化する「非線形的な性質」があることがわかります。

枝廣淳子『レジリエンスとは何か』

このような閾値と非線形的な性質があるため、衰退ループが働き始め、生態系の潜在的な回復力を損ない始めても、多くの場合、見た目には問題があることがわかりません。手を打たずにいる間に、衰退ループがどんどん進んでしまい、「気がついたときは、手の打ちようがない状態」になってしまいます。

枝廣淳子『レジリエンスとは何か』

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