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小さなとげの抜き方

とげが刺さったところに氣を通す(手や指を当てる)。

少しすると、とげの頭がちょっと出てくる。

後はつまんで抜くだけである。


これだけ聞くと、胡散臭い(笑)


だが、ウソのような本当の話。

身体は、異物を外に出そうとする。

その働きを信じて、手を当てて応援するだけだ。


その日も、これでうまく行った。

ただし、頭が出るところまでは、だった。

その先の、つまんで抜く道具に問題があった。


小学校をお借りして稽古をしていた時のこと。

ある子が、「足にトゲが刺さった」と言う。

目で見ても、トゲがあるかどうかわからないほど小さい。

取ってみてわかったが、長さは約1mm、太さは0.2mmあるかないかという極小の金属片だった。

なぜ、そんなものがかかとに刺さるのだろうか。

そんな疑問は後から浮かんだが、その時は眼の前のとげを取り除くことが先決である。


夏休みの土曜日の夕方。

幸い、副校長先生が一人、お仕事をなさっていた。

「とげが刺さったので、とげ抜きをお借りしたいのですが。」

ご理解頂き、保健室を開けてとげ抜きやルーペを貸してくださった。


ところが、それでもダメだった。

とげ抜きの角が丸くて、とげの頭がつまめないのだ。

逆にとげの頭を押し込んでしまう。

角が尖っている先端を使っても、なかなか捉えられないほど、小さなとげだ。

(針じゃなきゃだめだな。)

そう思い、再び副校長先生にご相談。


「裁縫用のまち針でもいいのですが…。」

どうにか探し出してくださったのは、注射針のようなもの。

気休めにお借りした安全ピンの先が丸く見えるほど、鋭利な針先だ。

稽古を観ていたお母さんが私の代わりに挑戦していたが、とげはやはり出てくれない。


「針を持ってきたから大丈夫だよ」

案の定、針と聞いて子どもたちは騒ぎ出した。

「針!」

「怖い!」

「痛そう!」

頼もしいことに、とげが刺さった子は、過去に自分で針を使ってとげを抜いたことがあるという。

氣を通す力(手当て)も知っている子だった。

不安そうな様子がなかったので、これなら大丈夫だと確信した。


針は、皮膚に刺すのではない。

とげの頭を横から刺激するだけだ。

皮膚と平行に針を動かすので、体に刺さる心配はない。


ツン、ツン、ツン。


鋭利な針の先端が、金属片に引っかかる手応えを感じた。

(これならいける。)

そう思って、もう一度ツンとつついてあげた。

するとどうだろう。

とげは、自らツルンと外に出てきたのである。


まるで、赤ちゃんが産道から出てくるような、心地よい瞬間であった。

異物を外に出そうとする皮膚の働き。

とげが外に出るきっかけ。

その二つを上手に組み合わせてあげると、小さなとげでもスルリと抜ける。

お産婆さんが、お母さんと赤ちゃんの共同作業を援助してくださるのと、少し似ているかも知れない。


それぞれの力を信じ、協力しあう手助けをするのだ。

第三者にできることは、それだけ。

だが、それで十分なのである。

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