「春と盆暗」を読んで

本来であれば、戯曲や小説を書いて、あげていかなければならないのだろうが、ポンポン作品を生み出す能力がないので、こういう読書感想文でもあげてみようかと思った次第である。

漫画アフタヌーンに「春と盆暗」熊倉献 著 という作品があり、借りて読んだ。良かった。読み切りの話が四編入っているオムニバス形式の一冊で、各話が関連はしてないが、盆暗の男が、不思議なちょっと変わった女性に出会うというところは一致している。

何が良かったかというと、自分がこの盆暗の男を、地で行っていた過去があり、共感したからである。三十代になってようやく、社会に出たらしなくてはいけないことを学んで、家庭も持って、すっかり社会人になった自分は、二十代前半は、こういう盆暗であった。

四編あるうちの第一話の「月面と眼窩」では、変わった女の子サヤマさんと、盆暗の男の子ゴトウ君が出てくる。サヤマさんはだいぶ変わった女の子で、その変わった感じが、とてもわかるのだ。そして、その女の子に惹かれていくゴトウ君の気持ちもよくわかる。変わった女性に、普段と変わった接し方をしていくのは、相手の変わっている部分を共感しようと試みる行動の表れである。たくさんの人間の中で、とてもマイナーな趣味を分かち合えたとき、メジャーな趣味よりも、特別感を感じる。喜びも大きくなる。できるならそういう出会いを求めているのが、ゴトウ君であり、昔の僕であり、オタクと呼ばれる人たちであると思う。

昔の僕は、人と違うことを好み、人と違う人との出会いを探していた。そういう出会いをしたときは、変化球を投げて相手の反応を見ていた。作中の中に、変わったことをしたり、言ったりして、後悔するゴトウ君が、他人とは思えなかった。

そういった共感を持ち、最後の第四話目まで読んで、何故か救われた気持ちになった。正義や、正しさのために動くヒーローが出てこない漫画。日常の社会から外れたところにいる人を描いた漫画。そういう作品に出会うと、自分の存在を認めてくれたような気分にさせてくれるのである。こういう作品がたくさんの人に読まれて、盆暗男子と不思議女子が、メジャーになるといいなと思った。

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