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有料ライブ配信が切り開いた、2020年の新しいライブシーン

新年あけましておめでとうございます。私の2020年は大晦日までライブ配信現場で納めました。Ustream時代や古くは1997年に登場したRealVideo時代からライブ配信に関わってきた私ですが、2020年は新型コロナウイルスによる影響によって、大きな転換点を迎えたと実感しています。

2020年の変化を支えた、一番大きな要因は、「そもそもお客様が入れられないので、無観客でライブを届ける以外になかった」こと、そして、「有料のライブ配信プラットフォームの登場」です。



それによって、音楽系のライブ配信件数は一気に増え、私が担当したものだけでも、アイドルさんの配信案件が59件、その他音楽モノが14件となり、2019年以前と比べて激増しています。

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もちろん、背景には光回線やLTEなどの高速なモバイル通信、動画再生が可能なパワフルなスマートフォンを誰もが持っていて、ライブ映像を受信して再生する環境を誰もが持っているということも大きいと思います。

これが、10年前だったらどうでしょうか? 総務省の情報通信白書によると、2010年のスマートフォンの世帯保有率は9.7%しかなく、当時のモバイル回線はLTEが試験運用開始のタイミングで、3Gがメインでした。コロナ禍が2010年に襲っていたら、僕らの生活はもっと違ったものになっていたはずです。

有料ライブ配信が開いた可能性

2019年以前も僕らは音楽モノのライブ配信に関わることはありましたが、スポンサーのつく大きなイベントを無料で配信するものであったり、ファンクラブ限定配信、CDリリースなどに合わせた配信、ニコ生さんのプレミアム会員などに一部を限定した配信などに限られていました。

ライブ配信は会場費や機材費などに加え、カメラマン、スイッチャー、音声、照明、配信技術などの人件費が必要ですし、当然演者さんのギャラなどもありますから、プロモーションや会員の多いファンクラブなど、ある程度の費用がかけられるケースに限られていました。

もちろん、YouTube Liveの「スパチャ(Super Chat)」などの投げ銭により収益化できる可能性はあったものの、一定の規模のチャンネルでないと利用できないこと、また、ある程度ファンの母数が大きく、可処分所得の高い世代のファン層が多くないと費用を賄うまでにはいかないのも現実です。ライブアイドルの世界では、配信は無料で、終演後に「オンライン特典会」を実施して収益を上げる方法もあるものの限定的です。

そんななかで、2020年3月にいち早く立ち上がったツイキャス「プレミア配信」や、電子チケット販売プラットフォーム「ZAIKO」さんの「ZAIKOストリーミング」の登場によって、音楽モノのライブ配信の制作費用を「配信チケット」として、お客様からいただく選択肢が登場したことは、大きな変化をもたらしました。

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実際、私が担当した2020年のライブ配信の配信プラットフォームの内訳を見てみても、有料のものが半分以上を占めています。セミナー・イベント系の配信は、自治体さん主催のものも多く、広報が目的であって無料のYouTube Liveが使われているため、音楽系の配信に限定すれば、有料配信の比率はもっと上がります。

その中で感じた課題は、演者さんによっては海外のファンが多いにもかかわらず、イープラスのStreaming+などは、海外からの購入・海外発行のクレジットカードでの決済ができないために見ていただくことができないことです。その点でいえば、ZAIKOやツイキャスプレミア配信は海外からの購入も可能で、各社その辺はおおいに意識してほしいところです(決済だけでなく、国際化含め)。

無観客によって広がった表現の幅

以下のグラフを見ていただいてもわかるのですが、4〜6月は基本的にお客様を入れたライブ配信は一切ありませんでした。ライブハウスからの無観客ライブ配信に加え、演者さんそれぞれが自宅からZoomなどで参加しての「リモート」の配信などに限定されていました。

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ライブハウスからの無観客ライブ配信も3月からスタートしていたのですが、配信する僕らのほうも、当初は従来のお客さんありのライブ撮影のスタイルの延長でカメラ配置や画づくりを考えていましたが、3月31日実施した「NILKLY YouTube Live “Abstract”」では、無観客ならではのスタイルがつくれたように感じました。特別な演出は特にないのですが、フロアにお客さまがいないのを利用して、フロアを自由に使って撮影することで、「最前列で観ているファンの視点」を届けることができたと感じています。

8月24日に実施した、RAYのワンマンライブ「birth」では、無観客ならではの演出もいれて、リハ中に撮影した映像なども合わせてスイッチングするなど、無観客でなければつくれない映像や演出を追求しました。

MIGMA SHELTERの無観客ライブ配信は、ハロウィンのときは、おやすみ中のナーナナラさんが登場(?)するサプライズなど、無観客ならではの演出を工夫してきました。

また、よりシンプルなほうでは、ジンバル1台によるワンカット長回しなどもトライしています。この日は自分でジンバルをやるのは初だったのもあり、いろいろ反省点はあるのですが、大きな可能性を感じました。



同じ、電影と少年CQのジャズのピアノトリオとのライブをワンカットで年末に配信した映像が、まだアーカイブ販売しておいますので、こちらもよろしかったら是非。


有観客&ライブ配信のハイブリットというスタイル

7月以降、徐々に有観客のライブも増えてきたものの、販売できるチケットの枚数が限定されてしまうこともあり、お客さまにも来場していただきつつ、配信も有料で販売するというスタイルも多く行われました。

以前ですと、お客さまの入ったライブをプロモーションなどで無料配信することには、チケット代を払っていただいたお客さまとのバランスで苦慮することもあったのですが、ライブ配信も有償で販売できることで、その辺のバランスもとりやすいこと。また、来場されたお客さまのなかには、ライブ配信もチケットを買ってご覧になっていただける方も多くいらっしゃいました。



お客さまの入ったライブ会場での撮影は、どうしてもカメラマンが邪魔であったりという問題も出てくるのですが、ライブ配信を中心に据えて、ご来場の方々には、あくまで「番組観覧」的に「観覧チケット」を買っていただき、ライブ配信のチケットもバンドルされているというスタイルを打ち出した「SYNCHRONICITY2020 Winter Live」もひとつの形だと感じています。


僕ら配信チームとしても、お客さまからの視界をじゃましない範囲で、無観客のときに可能性を実感した画づくりをいれていけるかを考えるようになりましたし、声は出せないながらも盛り上がるお客さまの姿越しにステージをみる画というのは、やっぱりいいなというのを改めて実感しました。

埋もれたままの過去のライブ映像コンテンツ

私が2020年に関わった音楽モノのライブ配信73件中、トークなどを除いたものは69件。パッケージとして販売する方向で動いているものもありますし、YouTube Liveやニコ生で配信されたものの一部はアーカイブがまだ公開されていますが、多くは再び観ることは叶いません。

もしも、アーカイブの購入・視聴がもっと長い期間にわたってできるのであれば、演者サイドとしてもあらたな収益源となりえますし、ファンとしても観たいときにみられますし、新しいファン獲得のきっかけにもなり得るだろうと思います。



現状、多くの有料配信プラットフォームは、アーカイブ期間を3日から2週間程度に制限していることが多いのですが、多くのサービスが配信に利用しているサーバは、データを置いておくだけでも、従量課金されるため、どうしても短めのアーカイブ期間となっています(映像データはかなり大きいですから)。また、ライブハウスのアカウントで配信されているものなどは、精算などの手続きの都合上も長い期間アーカイブしにくいというのもあるだろうと思います。

ZAIKOの場合、「ZAIKOアンコール」という月額600円のサブスクリプション型のサービスを開始していて、会員になれば過去のライブ映像が観られるのですが、コンテンツはまだまだ限られるうえに、コンテンツによっては過去に自分が購入したチケットのアーカイブ期間が延長するだけのものもあって、まだまだ限定的で、シンプルに、過去の映像を1本単位で購入して観られるようなサービスが求められていると感じます。

有観客&配信のハイブリットならではのあたらしい収益手段

過去のライブについて、パッケージ化で動いているものもあるというお話をしましたが、実際のところBlu-rayやBD-R、DVDなどでの販売となると、編集&オーサリング、パッケージのデザイン、製造などの工程も発生するため、どうしても発売までのハードルが高くなってしまいます。


一方で、有観客&配信のハイブリッドのイベントの場合、来場したファンとしても、ライブ映像を観たいというニーズはあると思います。先にも書いたように、ライブのチケットに加えて、配信チケットも買っていただけるファンも多くいらっしゃいますが、できるならアーカイブ期間にとらわれずに、いつでも観られるコンテンツとして手元に置いておければという思いもあるでしょう。

そこで、私たちが可能性を感じているのが、終演後物販にて、当日のライブ配信映像の撮って出しデータを購入できる仕組みです。具体的には、Blackmagic Designが販売している「Duplicator 4K」という、映像をリアルタイムに25枚のSDカードに同時記録できる装置を使ったもので、終演時にはすでにコンテンツが出来上がっている点が強力です。

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私自身、音楽モノのライブ配信を実施するために必要なコストを賄うために、こうした取り組みができないかと、2017年夏に勢いで1台を導入、某ライブ配信現場で、関係者配布用に実験してみたのですが(詳細は「[OnGoing Re:View]Vol.31 最大25枚のSDカードにリアルタイム収録が可能なBlackmagic Duplicator 4K」参照)、その後、実際に投入することなく、3年が経過しました。

そんななかで、2020年12月28日に開催された、“レジェンド”こと小日向由衣さんのワンマンライブのライブ配信が決まり、少しでも売上を確保したいという事情もあって、小日向さんの即断で、終演後にライブ映像を収録したSDカードを販売することにしました。ぎりぎりの告知であったにもかからわず好評で、用意した24枚(1枚は予備)は、ほぼほぼ完売の勢いで、追加のうえで通販や後日のイベントでの物販も行うことになりました。



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実際のオペレーションやパッケージ、視聴環境(カードリーダなどがあればスマホでも見られます)などについては、改めて書きたいと思っていますが(「その日のライブ映像をお持ち帰り! 撮って出しライブ映像を終演後すぐに販売!」として記事を公開しました)、今後、有観客であっても、ライブ配信も継続していく流れは確実にあると思いますので、そうした中で、アーティストが活動を続けていくための1つの収益源となりうるのではないかと感じています。

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新型コロナウイルスの感染拡大の状況をみていると、2021年のライブシーンがどうなっていくか、なんとも見通せない感じにはなっていますが、ライブ配信に関わる者として、アーティストの活動を微力でも支えられるよう努力していきたいと思っています。

こんな時期ですので、サポートいただけたら家飲みビール代としてありがたく使わせていただきます! ご紹介しているような配信案件などのご相談ありましたら、TwitterやFacebookなどでどうぞ!