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祖母の まじないの様な入浴作法

 寒い日が続くと、冷え切った体を温めてくれる入浴が楽しみだ。湯に肩までつかっていると、白い湯けむりの中で思い浮かべることがある。

 子どもの頃住んでいた社宅は、戦後すぐに建てられ内風呂がなかった。歩いて10分ほどの会社の共同浴場に通うことに。ボイラーの燃料には会社の製品のコークスが使われていた。

 社名が焼き印され、家族の氏名が墨書きされた木札が「通行手形」。番台に見せて入った。親戚が泊まりに来た時は、隣近所からこの木札を借りた。番台のおじさんは「いちげんの客」と分かっても、安宅の関の富樫氏のように黙認してくれた。

 脱衣所では、壁に貼られた近所の映画館のポスターなどを眺めながら、脱いだ服を籐のかごにいれていた。浴場入口のガラス戸は湯気で曇り、小さい子らの落書きのキャンバスだった。浴槽は結構広く大人15人くらいがゆっくり入れた。空いている時は泳ぐ子もいたほどだった。共同浴場は子どもにとって、仲間との遊び場でもあった。

 小学校低学年まで母や祖母と一緒に女湯に入ることも。祖母は「肩までつからんと湯冷めする」「風呂から上がる前にあと20数えるんよ」と口うるさかった。お湯から上がる前も「体が芯からぬくもる」からと、両手に溜(た)めた冷水を私に飲ませ、再度湯船につかるように言った。祖母が入浴時に毎回していた、まじないのような冷水の作法。効き目があったのか、なんとなくポカポカ温まったような気がしていた。

 さて「裏金の湯」に浸っていた自民党議員。国民は落選という冷水を浴びせるしかないだろう。

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