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コロナ後のインバウンドが我家にも

 サザンカのつぼみが膨らみ始めたころ、メキシコに住む次女が二人の孫娘を連れて5年ぶりに一時帰国した。コロナ禍で海外渡航が禁止され、長く帰れなかった。

 次女は街に出かけると、メキシコへのお土産も含めて、インバウンドの旅行者なみに日本製品を買っていた。何を見ても「安い安い」と口にし、円安を実感していた。2年以上海外に住んでいると、日本国籍でも免税の特典が受けられることが、拍車をかけたようだ。

 孫娘たちが日本でやりたいことのトップは、着物姿になること。動画サービスで、スペイン語吹き替えの日本のアニメを観ている。舞妓さんがテーマのものや「鬼滅の刃」などの登場人物の衣装に憧れた。時期もよく、近所の神社に七五三詣でに。貸衣装屋では、何着も試着ができ、鏡に映る姿に喜んでいた。頭の先からつま先まで和装にし、草履で玉砂利の上もうまく歩けた。神妙な顔つきで祝詞を聞いていたが、気分は舞妓さんだった。

 上の孫は小学2年生。子どもレベルの日常会話は日本語で話す。漢字は無理だが、ひらがなは何とか書ける。鹿児島の小学校は、一時帰国者の子どもが体験学習できる。4日間だけ入学した。自己紹介後、すぐに友達もできた。休み時間に彼女の机に集まってきたり、校庭では初体験の長縄跳びに誘ってくれた。「学校は楽しいよ。給食もおいしいし」と笑顔で話していた。最後の日、校舎から出てきた彼女は涙ぐんでいた。27人の級友との別れが辛かったようだ。

 喧騒の1カ月が過ぎ静かな家に戻った。寂しさを慰めてくれるかのように、サザンカの深紅の花弁(びら)が一斉に開き始めた。

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