見出し画像

日常的風景から日本文化を読み解く

『見立て日本』 松岡正剛 著
角川ソフィア文庫 本体2000円+税

 高校2年の1967年、学校図書館に「the high school life」という月刊のタブロイド紙が置かれた。表紙は大きく飾られた宇野亜喜良のイラストレーション。地方都市の高校生は、「厳粛」な学校図書館でこんなものを読んでいいのかと周りを気にした。横尾忠則、寺山修司、澁澤龍彦、稲垣足穂といった突出した人たちの演劇、文学論が毎月載っていた。これを理解できる高校生がいるのかと驚き、都会と地方では時間軸が違っているのだと思うほど、ハイレベルすぎる紙面だった。

 大学生の時、書店で「表紙買い」したくなる雑誌を見つけた。「遊」の創刊号だ。この雑誌は宗教から科学、現代思想、音楽、宇宙、文学など多様なジャンルを扱っていた。どの分野も私の脳には歯ごたえがありすぎた。貧乏学生には高価だったので、松岡正剛の連載「自然学曼荼羅(まんだら)」だけ立ち読みを続けていた。松岡は「遊」の編集者だった。「the high…」の編者も彼であることを後に知った。

 その後彼は編集工学者として活動。無料書評サイト「千夜千冊」を開設。民主党政権時代にスタートした「クールジャパン事業」のクリエイティブエディターを務めた。最近では隈研吾が設計した文化複合施設の館長になっている。その活躍ぶりから「知の巨人」と呼ばれたりもする。

 そんな彼が、大衆週刊誌「週刊ポスト」の巻末グラビアページに2011年から2年間「百辞百物百景」という連載を執筆した。太田真三カメラマンが21世紀の日本を切り取った写真に、900字ほどの日本文化エッセイを重ねるというものだった。立ち寄った定食屋に置いてあった「ポスト」でこの連載を見た。なんとなく連載が終わればきっと単行本になると予感した。

 予想は10年間裏切られたが、2022年秋に文庫本という形で刊行された。文庫は連載の100回に新しく20のキーワードが追加された。タイトルは『見立て日本』に変わった。定食屋で見たページで記憶に残っているのは、登録抹消した小型飛行機が田んぼの中の低い鉄塔に展示されている写真。松岡はこれを案山子(かかし)に見立て、案山子とはヤマダノソホドという全知神のことと「古事記」を引用。そして一神教は最高神が全知神だが、日本では全知神はむしろ脇役で、スマホ万能検索時代でも本当の物知りは脇役にいるはずと現在をチクリと刺していた。

 ふとした風景に日本文化の面影を見つける、正剛流の「見立て」技がぎゅっとつまった厚さ2・5㌢の文庫本。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?