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生まれ育った土地への愛と共に生きる

1950年代末にブラジルで誕生したのち、アメリカを経由して世界に広まったボサノーヴァ。南洋のハワイにも上陸すると、ハワイアン・ミュージックと蜜月となり、フラノーヴァと呼ばれる新たな味わいのハワイアンを産み出した。その代表とされる曲が、クイ・リーの作詞作曲による「アイル・リメンバー・ユー」だ。1964年にドン・ホーが自らのショーで歌いハワイで評判を取った後、フランク・シナトラ、エルヴィス・プレスリーら多くのシンガーがカバーするなど、思いがけぬ拡がりを持つ歌となった。

まずコニー・フランシスのヴォーカルで聴いてみよう。


クイ・リーから新作の一端を聞かされ、感じるものがあったドン・ホーは、ふたりで朝までホテルの一室にこもって作品を完成させた。「夏のそよかぜのようなキミの声を忘れない。キミの優しい笑い声が聞こえる朝には、いつもキミを思い出す」と歌う歌詞は、「そのままだとロマンチックなラヴ・ソングのようだけれども、実はハワイのことを歌っているんだ」と、ドン・ホーは言う。本土の大学に在学中、友人とアメリカ南部を良好した際に、ハワイ人であることからいわれなき差別を受けた経験を持つドン・ホー。それが彼のハワイへの愛を、さらに深めるきっかけになった。

作者クイ・リーとの音楽作りについて、「自分たち二人はハワイのローカル・ボーイであり、そうした二人が自分たち自身の音楽を作り出すこと、自分たちのライフ・スタイルを反映した作品を作りだすこと、それこそが大切だった」とも、ドン・ホーは自著に記している。

「アイル・リメンバー・ユー」は、ハワイのローカル・ボーイたちが、生まれ育った土地への愛を心の奥に持ちながら生きることを示唆する歌だった。


1966年にガンで亡くなる直前、作者のクイ・リーは自らの死を意識しながら「アイル・リメンバー・ユー」を録音した。これがなんとも言えず、味わい深い。


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