友の影響 短編作品
仕事が終わり、食堂に行くと忠信が項垂れている。
「あぁ、また御愁傷様かぁ。瞬時にわかる。
声を掛けるのが億劫に感じるが、ここは忠信の話を聞いてやるとしよう。
そばによると、待ってましたの如く忠信が顔を上げる
「おぉ 誠司・・・・・・」
「忠信、ダメだったかぁ」
「あぁ・・・・・・」
忠信がマッチングアプリを始めて、1年になる。
実らない恋を悔やみ続けているのだ。
1年で出会った数は、今日のを含めると6人。
2ヶ月で二人のペースで会っている計算になるが、6人とも続かない。
青菜に塩状態の忠信は、何も聞かなくても、ぶつくさと文句を垂れ出した・
そもそもマッチングアプリは物件探しと似ているだとか。
スペックで判断されるのは、やっぱり間違っているだとか
どの子も社交辞令の範疇で、真剣さを感じないだとか
人の時間を何だと思っているのかだとか
俺はもう、誰にも愛されない人間だとか
ハイパーネガティブモードになっている。
「だったら、やめようよ。」
そう、喉まで出かけたが、言わない。ここは、静かに聞くべきだ。
忠信は、真摯に向き合っている。
昔から不器用なくせして、威勢だけは誰にでも負けなかった。
その姿は、真っ直ぐすぎて眩しく、羨ましい。
マッチングアプリを始めたばかりの頃、
緊張のあまり、出会った相手に「彼氏はいるんですか?」
と聞いてしまったというエピソードを聞いた時は流石に声を上げて笑ってしまった。
そんな状態で初め、早、6人目。
確率的には、一人くらい友達クラスの関係にもなってもいい子くらい出てきてもいいくらいだ。だが、そこまでにすら至っていない。
忠信の重たいため息が耳に流れる。
「なぁ、忠信。俺はそれ程、悲観してないぜ。
お前は、アプローチする側の人間じゃないと思う。」
忠信が顔を上げてこちらを伺う。
「いや〜 何というか、お前は、伝えようとするとだめだ。
お前の熱量は伝えるんじゃなくて、伝わるの」
「・・・・・・」
「正直、疲れただろ。頑張るの」
「まぁ・・・・・・なあ」
「リセットで酒でも飲みに行くか。お前のよさを取り戻しに」
「うん」
忠信には、背中を押されてきた。忠信には巻き込む力がある。
誰かに影響を及ぼす力が。
その影響が、7人目の人に伝わればいいなと思いながら、昔の話に花を咲かせた。
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