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嫌だけど、やりがいはある(短編作品)


 
 和樹はため息を漏らした。実に深いため息。
こんなため息をついてはいけないと思ったが、仕方ないかとも思う。
ここ最近、嫌なことが連続して起きて、仕事をするのがえらく億劫だ。
職場にくるまで、なんでも仮病で休もうかと思った。
 真面目にやっているが、周りがそうではないのだ。
今日も、朝から雑な管理。ルールの「ル」文字も守ろうとしない。
以前、指摘したら、
「これくらい、わかるだろ〜 悟れよ」
そう一蹴された。
悲しくてやりきれなくなった。
やる気のない連中から、早く抜け出してトラックに乗り込む。
トラックは狭く、最近は車内に気を配ることができず、乱雑としている。
シートは固く、座り心地は相変わらず悪い。
しかし、唯一一人になれる空間だ。
「はぁあ」
座席に座るなり、大きめのため息をついてしまう。

茹だるような暑さの中、ただひたすら荷物を運んだ。
日が西に傾き始め、風が心地よく感じるようになてきたとき
、あるアパートに荷物を届けた。
年の若い女性が出てきた。
「あぁ、ゆうくん 届いたよぉ」
部屋の隅から、べそを描いた3歳くらいの男の子が顔を覗かせた。
直感的に母子家庭の方だなぁとわかる

「お兄ちゃんが暑い中、持ってきてくれたよ 」
口を咥えたまま、小さな手を和樹の方へ伸ばしてきた。
荷物をそっと渡す。
「ありがとう・・・・・・」
嬉しそうに照れくさそうに、ぼうやはお礼を溢した。
「どういたしまして」
「このこ荷物が届かないって さっきまで泣いてて。」
「それは、失礼いたしました!」
「いえいえ、こんなに暑い中たいへんですよね。お気になさらずに」
母親はにこやかに労ってくれた。

 そのとき、一樹の中で込み上げてくる何かがあった。
一樹の心は、ここにくる前のものとは、明らかに違っていた。
雲から夕日が除き、一樹を照らす。眩しいが暫く見つめてしまった。
自分を求めてくれる人はいるのだ。だったら、凹んでないで頑張ろう。
明日からもっといい働きができそうだ。

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