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春と犬の力とコーヒーと(短編作品)


 今日は、日差しが気持ちがいい。少し、散歩したい気分だ。昌隆はそう思った。しかし、布団から出ると意外とひんやりしている。スウェットから、すぅーと風が入ってきた。やっぱり止めようと思った。しかし、ここは少し踏ん張って、外に出てみることにした。
 昌隆は、しばらく鬱になっている。仕事がうまくいかず、プライベートも何一つ面白くない。日々が期待通りにいかないことばかり。自分に期待するのは、傷つくことが多いし、他人に期待しても裏切られる。酷いときは、嫌われる。そんな、日々が続き、
引きこもることにした。まだ、頑張れる気力はあった。だけど、一度休職してみたら、抜け出せなくなった。あまりにも、楽なのだ。殻に籠るのは。いつしか、世の中がどうでもよくなっていた。

 外には出るが、仕事にはいかない。
何故かそう決心して、靴をはき扉を開ける。春の息吹が体をさらう。不覚にも、癒されてしまう。どうでもいいと思っていたのに・・・・・・。

 缶コーヒーでも、買うかぁ そう思い、近くの自動販売機まで歩く。日差しが温かい。空は、霞が少しかかっているが、春を思わせる暖かさと、どこか懐かしさを覚える


 へっ
鼻で笑ってしまう。

 懐かしさねっと少し、切なくなる。
缶コーヒーを買う。ブラックを選んでしまった。別にシャカリキに働く訳でもないのに・・・・・・。
ボーッと空を見上げる。このまま日差しを浴びていると、いつの間にか蒸発して、消えてちゃえばいい・・・・・・そう思った。

 ふっと視線を感じる。視線の方を向くと、小型犬がこっちを見ている。
隣にはおばあちゃんが公園の椅子に座り、団子を食べている。久々に犬を見た。その犬は、心配そうにこちらを見ている。純粋で優しい目をしている。しばらく見つめていた。ウルウルした綺麗な瞳・・・・・・。

 じわぁーと何か込み上げてくる。いつの間にか泣きそうになっている。えっ泣く?
随分と、泣いてないよなぁ俺・・・・・・と驚く。
涙を堪える。そしたら、心が満たされるのを感じた。
まさか、ワンちゃんに救われるとはな・・・・・・・。
その小型犬に『ありがとよぉ』と心の中で呟き、微笑んだ。
そしたら、すくっとその小型犬は立ち上がる。それにつられて昌隆も立ち上がってしまう。

あっ 

俺はまだやれる。いきなりそう思った。
飲んだブラックコーヒーの効力だろう。頭も冴えわたっている。
やれる!頑張れる!そして俺はついている!愛されている!
今度は口に出して礼を言う。ありがとよぉ!ワンチャン!。
コーヒー缶は捨てようとしたが、止めた。記念に家に飾るのだ。また、挫けそうになったときはこのコーヒー缶を見て思い出すために。

昌隆は、歩き出す。春の風は、追い風となって昌隆の背中を押していた。

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