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サイクル

デザイナーの伸子は、一仕事を終え買い物に出かけることにした。
夏の夕暮れ時は、まだ明るく暑さも和らいでくる。
運動不足気味なので、歩いて出かけることにした。

靴を履き、玄関から出ると蝉の死骸が転がっていた。

気持ちが切なるなると同時に、あることを思い出す。
伸子がまだ小学校の時、時江ちゃんという子がいた。
その子は、体が小さく内気な子だった。

学校終わりの夏の帰路、時江ちゃんと一緒に歩いていると
時江ちゃんがこう言った。
「私、生まれ変わったら蝉になりたい」
どうして?と私が聞くと
「蝉は約7年間地中で蛹として過ごしてから、蝉に羽化してから約7日間で死ぬから」
うん・・・・・・でも、短いよ。
「そうかなぁ 私は楽でいいかなぁそれくらいが。それにさぁ、ラッキーセブンが
2個もついてるよぉー 絶対幸せな生涯だよ!」

口には出さなかったが、時江ちゃんって不思議な子だと思った。
よくわからない理由だなあと。
まだ、生きて間もないとはずなのに、そんなに生きていたくないと言う。
よほど、辛い何かがあるのだろうと心配になった

小学生以来、時江ちゃんとは会っていない。

時江ちゃんは、まだどこかで生きているのだろうか?
生きてて欲しい。


西陽に向かって歩く。
歩いていると、赤とんぼがゆらりと信子の前方を跳ぶ。
目で追っていると、鈴虫の鳴き声も聞こえる。

夏が終わろうとしている。
そして、秋が訪れる。
このサイクルを繰り返す。

そういえば、この前の夏も時江ちゃんのことを思い出してたっけ。
時江ちゃんは、私の心の中でも生きている。
そう思えたら、ホッとした。

きっとどこかで、幸せな生涯を送っていることだろう。


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