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Peeling and Plummeting

N Engl J Med 2024;390:935-42
Clinical Problem-Solving
Connolly, M.D., Monica Meeks, M.D.,Avi Z. Rosenberg, M.D., Ph.D., Jacqueline E. Birkness-Gartman, M.D., and Allan C. Gelber, M.D.

20歳のグアテマラ人の女性が6ヶ月前から進行する関節痛と倦怠感を主訴に急病診療所(Urgent care facility)を受診した.彼女は6年前にメリーランド州に移住した.

関節痛は炎症性あるいは非炎症性の機序で起こる.炎症性の関節炎は朝のこわばりが特徴であり、活動とともに改善し、関節の腫脹や滑膜炎を伴う.一方で非炎症性関節炎は変形性関節症や外傷などから起こり、典型的には活動で悪化する関節痛が特徴である.関節近傍の痛みは、関節周囲の構造(腱、靭帯、滑液包、筋肉、骨)からも生じうる.

彼女は手の小関節、手関節、足関節に対称性の関節痛と腫脹を訴えた.さらに1時間の朝のこわばり、脱毛、寝汗、意図しない体重減少を伴った.手先がうまく使えず(dexterity)、食事や着替えに支障をきたした.彼女は最近の子供との接触を否定した.旅行歴は5年前にグアテマラに旅行したのが最終だった.英語力が限られていたため (limited proficiency)、有資格の通訳を利用した.

関節痛、腫脹、朝のこわばりが1時間以上続くことは、炎症性の関節炎を示唆する.彼女の炎症性関節炎を伴う一連の症状は、関節リウマチ、SLEなどのリウマチ性疾患を想起させるが、パルボウイルスなどの感染症や悪性腫瘍も考慮に入る.

白血球は4750/μL、Hb 12.6g/dL、血小板は273000だった.血清クレアチニン値は0.4mg/dLだった.尿検査では潜血や蛋白は検出されなかった.Thyrotropin(TSH)は5.32IU/mL(正常範囲 0.3-4.0)だった.抗核抗体は陽性(1:80)、リウマチ因子は陰性だった.急病診療所でヒドロキシクロロキンとレボチロキシンが処方され、さらなる精査と治療のためリウマチクリニックに紹介された.

炎症性関節症、脱毛、抗核抗体陽性からSLEの可能性が高まる.しかし低力価の抗核抗体陽性は非特異的な場合があり、健常人や他の自己免疫疾患(甲状腺疾患や肝疾患)、感染症や悪性腫瘍でも陽性になることがある.関節リウマチは依然鑑別疾患に挙がる.甲状腺機能低下症は関節炎を起こすことがあるが、サイロトロピン値の上昇がわずかであれば、この病態は考えにくい。ヒドロキシクロロキンはSLE治療の主体となり、軽度の関節リウマチも治療可能であるが、診断が確定した後に専門医の指導の元に処方されることが望まれる.

彼女は健康保険を有しておらず、プライケア医もいなかった.Covid-19の流行に伴い、彼女は保険に加入することも医療を行けることも困難になり、急病診療所で処方された2ヶ月間のヒドロキシクロロキンを使い果たした.
 症状が始まってから10ヶ月後、彼女は14kgの意図しない体重減少、びまん性の色素沈着のある皮疹、歩行困難となり救急外来を受診した.彼女の関節は、持続性の疼痛、腫脹、拘縮を伴っており、ヒドロキシクロキンを内服している間も症状が軽減することはなかった.さらに食欲不振と倦怠感が顕著であり、全身の脱力も伴うようになった.彼女は、歩行困難の原因は疲労と脱力感のせいだと思うと話し、わずか8フィート(約2.5m)歩くのに数分かかったと報告した.これまでの4ヶ月間、彼女はすぐに満腹になったが、腹痛や便通の異常はなかった.さらに、彼女は体幹、腕、脚の皮膚の黒ずみ、月経不順、薄毛が続いていることを報告した.

びまん性の皮疹の鑑別疾患は広範である.潰瘍や結節性の皮膚病変であれば、播種性の真菌感染や抗酸菌感染症を示唆するかもしれない.黒ずんだ皮膚、体重減少、倦怠感から、副腎不全の可能性も高まる.光過敏性の皮疹であればSLEや皮膚筋炎に合致し、後者の場合は基礎疾患として悪性腫瘍が懸念される.近位筋の筋力低下があれば炎症性筋疾患や腫瘍随伴性筋症の可能性がある.筋酵素を測定し、甲状腺機能を再評価すべきである.
  著明な体重減少は悪性腫瘍の可能性を高める.体重減少を引き起こすIBDや吸収不良症候群(セリアック病、膵臓の障害)などの消化器疾患は、腹痛、下痢、血便がないため可能性が低い.早期の満腹感は、閉塞や胃不全麻痺(gastroparesis)を示唆し、糖尿病を除外すべきである.貧困のため食物を購入できない、摂食障害によるカロリー不足も考えるべきである.播種性結核、ヒストプラズマはグアテマラの風土病であり、これらの微生物の播種性感染症は副腎不全、体重減少、食欲不振を引き起こす.

身体診察では、外観は病的であった.バイタルサインは体温 38.4℃、脈拍 120回/分、血圧 110/70mmHg、呼吸数 16回/分、SpO2 95%(室内気)だった.体重 36kg、身長 150cm、BMI 16.0だった.彼女の皮膚は乾燥しており、魚鱗癬様の皮疹があって、手足を過角化した皮膚が覆い、顔、胸、腹、手足には粒状の色素沈着があった(図1).頭髪は薄くなっていた.手の小関節、手首、肘、膝は腫脹し、触診で圧痛を認めた.リンパ節腫脹はなし.心肺の診察は異常なし.鎖骨中線で20cmの圧痛のない肝腫大を認め、脾腫はなかった.彼女は著しく弱っており、ベッドで姿勢を変えるのにも介助を要した.近位筋は遠位筋より筋力低下があり、疼痛はなかった.MMTでは首の屈筋と股関節の屈筋は2/5、他の筋肉は4/5と筋力低下があった.

発熱と頻脈があり感染症が想定される.感染源、腫瘤性病変、リンパ節腫脹の評価のために胸部〜骨盤部CTを考慮すべきである.魚鱗癬性発疹は全身性疾患を示唆し、ホジキンリンパ腫、固形癌、HIV、サルコイドーシス、栄養障害などが考えられる.著明な肝腫大は肝への浸潤性の腫瘍や感染の機序が考えられる.

WBCは6.23/μL(?)(好中球 73%、幼若白血球 1%、リンパ球 15%、単球 7%、好酸球 4%)、Hb 9g/dL、MCV 94、Plt 212000/mLだった.血清Cre値は0.3mg/dL.フェリチン値は767mg/mL、血沈は88mm/hだった.CRPは0.4mg/dL、ASTは650U/L、ALTは426U/L、ALPは443U/L、TPは5.2g/dL、Albは0.7g/dL、T-bilは正常値だった.TSHは7.92IU/mL、fT4は1.0ng/dLだった.尿検査では白血球なし、赤血球なし、細菌なしで、蛋白は2+だった.血液培養では菌は検出されなかった.

白血球数は正常であるが、培養データが出るまでは、輸液と抗菌薬治療が適切である.悪液質(cachexia)は頻脈の要因となる.呼吸器ウイルスパネルと結核に対するインターフェロンガンマ放出アッセイを施行すべきである.AST上昇、軽度の貧血、リンパ球減少はウイルス感染を示唆する(CMV、EBV、HIV)が、SLEやそれに関連する自己免疫性肝炎にも矛盾しない.
  著明な低Alb血症は著しい低栄養状態(摂取不足、蛋白漏出胃腸症、ニューロパチー)を示唆する.尿蛋白の程度を測定し、ネフローゼ症候群(SLE、悪性腫瘍に伴う膜性腎症、感染症=HBV、HCV)がないか確認する.痛みのない近位筋の筋力低下は炎症性筋疾患が考えられ、それはSLEに伴って起こることがある.

抗核抗体は160倍、抗ds-DNA抗体は160倍、抗Sm抗体は21Uだった.C3は71mg/dL、C4は18mg/dL、クームス試験は陽性で末梢血の塗沫で溶血を認めなかった.CPKは58U/L、アルドラーゼは16.4U/Lだった.組織グルタミン転移酵素に対するIgGとIgAは陰性だった.24時間畜便のα1-アンチトリプシン検査と脂肪便は正常だった.

炎症性関節炎、脱毛、リンパ球減少、抗核抗体と抗dsDNA抗体陽性、尿蛋白、クームス検査陽性から、SLEの分類基準を満たす.アルドラーゼ上昇、近位筋の筋力低下は(例えCPKが正常でも)活動性筋炎を示唆する.しかしアルドラーゼ値は肝臓と肺に病因があっても上昇する.私の場合、筋肉の画像と同様に腎と皮膚生検を検討する.今回認めたように魚鱗癬様の皮疹はSLEには非典型的であり、malar rash、discoid rashの頻度が高く、時に脂肪織炎や水疱性病変を示す.同様にSLEは肝臓の炎症と関連するが、この患者の著明な低アルブミン血症と著明なAST上昇はSLEでは頻度が高くないため他の原因の検証が必要である.

追加の病歴聴取では毒物の暴露やアルコールの使用はなかった.輸液と抗菌薬治療の開始後6時間以内に、頻脈と発熱は改善した.A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎の血清検査は陰性だった.CMV、EBV、HIVのウイルス検査も陰性だった.腹部CTでは、びまん性脂肪肝を伴う頭尾軸25cmの肝腫大を認めた.リンパ節腫大と脾腫はなかった(Fig.2).腹壁と脊髄傍皮下組織の浮腫が認められた。48時間後の血液、喀痰、尿培養は陰性であったため、抗菌薬を中止した.

急性の感染性肝炎は除外された.圧痛のない肝腫大は脂肪肝(アルコール使用や低栄養に関連する)、感染症(抗酸菌感染)、癌、他の浸潤性疾患(アミロイドーシス、ヘモクロマトーシス、サルコイドーシス)で説明される.

腎生検では糸球体の毛細血管壁のびまん性の壁肥厚を認めた.直接蛍光抗体法では毛細血管壁とメサンギウムにIgG、IgA、IgM抗体とκ軽鎖とλ軽鎖のびまん性の粒状の染色を認めた.電子顕微鏡写真では、上皮下とメサンギウム領域に高密度沈着を認め、尿細管内封入体も確認された(Fig. S1).これらの所見はループス腎炎Ⅴ型(膜性腎症)(ISN/RPS)の診断に該当した.
  胸部の皮疹の生検では、表皮基底膜に沿ったIgMとC3の肥厚帯を伴った軽度の空砲性皮膚炎(真皮表皮接合部皮膚炎)の所見であり、ループスの皮膚病変と考えられた.蛍光染色ではIgG、IgA、フィブリンの沈着はなかった.
  大腿筋のMRIでは両大腿の近位筋と筋膜に浮腫を認めた.筋電図では、炎症性筋炎に合致した細動と鋭角波を認めた.追加の質問で、彼女は4ヶ月間飲み込みが困難であり、最初は液体だけだったが、次第に固形物も飲み込みにくくなった.

腎、関節、筋の炎症、活動性の筋炎は活動性のSLEに合致するが、魚鱗癬、著明な低アルブミン血症、著明なA S T上昇は十分説明できない.例えネフローゼ症候群が関係していたとしても、血清アルブミン値が1.0以下になることはSLEでは稀である.肝機能上昇と著明な肝腫大肝生検を行うべきである.ビデオ下の蛍光嚥下検査咽頭収縮の障害、上咽頭反転の欠如、嚥下した液体のかなりの咽頭への貯留がみられ、この貯留は嚥下を追加しても消失しなかった.貯留により喉頭への浸透と誤嚥を引き起こした.

ビデオを用いた嚥下評価のための検査は、咽頭の収縮の障害、喉頭蓋の反転の欠如、嚥下した液体の咽頭へのかなりの貯留を認めた.この貯留は扁桃への侵入と誤嚥を引き起こした.
   患者は肝生検を受け、重度な巨大空砲状の肝の脂肪症を認めた(Fig. 3、Fig. S2).肝細胞内には鉄染色、PAS染色での細胞質内の小球を認めなかった、またアミロイドの沈着も認めなかった.組織学的な検討では、SLEや自己免疫性肝炎で認められるような活動性の肝細胞の浸潤を認めなかった.肝腫大と観察された組織学的な特徴は、皮膚所見と併せて、kwashiorkor型栄養障害の診断を支持する.臨床的、画像的、筋電図の所見を受けて、筋生検は延期された.

“Peeling paint はがれかけた絵”や”flaky paint まだら状の絵”のような皮膚症はkwashiorkor型栄養障害を強く示唆する.栄養障害の評価が正当化され、重度の栄養障害を引き起こしている原因=つまりSLEに関連した筋炎によると思われる嚥下障害、の治療が必要である.

ビタミンA値は17μg/dL(正常範囲 38-98)、25-OH ビタミンD値は10ng/mL(正常範囲 30-100)、亜鉛値は16μg/dL(正常範囲 60-130)だった.ビタミンB12、C、E、K、セレン値は正常だった.ステロイドパルス治療、MMF、IVIG、集学的な栄養治療で治療を行なった.リフィーディング症候群を懸念し、綿密に電解質値をモニターした.嚥下、言語療法士との相談に基づき、ピューレ食を開始し、治療で嚥下障害が改善するにつれて常食に食上げされた.理学療法士と作業療法士により、入院中のケアと自宅でのリハビリテーション計画が提供された.彼女は、メチルプレドニゾロン、MMF、ヒドロキシクロロキン、ステロイド軟膏、レボチロキシン、ビタミンD2、ビタミン及び栄養サプリメント、安全な飲み込みのための濃厚流動剤、で自宅退院となった.
   6ヶ月のフォローアップで、彼女は16kg体重増加し、アルブミン値と肝機能は改善し、蛋白尿、嚥下障害、脱力、全身の魚鱗癬様の皮疹は改善した(Fig. 4).1年後、日々の生活を問題なく送ることができるようになり、仕事を再開していた.

【COMMENTARY】
今回の20代の女性は炎症性関節炎、脱毛、蛋白尿を主訴に受診し、のちの血清学的検査、病理学的な所見ではSLEを示唆していた.しかしこの診断は彼女の全ての臨床像を説明しなかった.Covid-19のパンデミックに関連した通院の中断の後に、彼女は歩行障害、嚥下障害に重度な体重減少や低栄養状態が加わり、ERに戻ってきた.最終的に最終的には、高度の低アルブミン血症、肝腫大、剥脱性皮膚症、肝臓病理組織所見からKwashiorkor型栄養障害と診断された.
  Kwashiorkor型栄養障害は、著明な筋肉量低下、肝腫大、低アルブミン血症をもたらす重度のタンパク障害の結果である.色素沈着、魚鱗癬様、表皮剥奪様の皮疹が顔、体幹、手足に出現するのは特徴的な所見である.タンパク質が欠乏すると、血漿中のトリグリセリドとリン脂質の濃度が低下し、遊離脂肪酸の濃度が上昇し、トリグリセリドの蓄積に起因する肝腫大が起こる.肝生検では、重度な巨大空砲状の脂肪肝の結果となり、Kwashiorkor型栄養障害に合致していた.
  この患者の深刻な栄養失調の根本的な原因は、うまく飲み込めないことだった.アルドラーゼ上昇、EMGの所見は活動性筋炎に合致し、それはSLEによって起こったと考えられた.SLEによる筋炎は嚥下障害や手足の筋力低下を起こし、(稀ではあるが)心筋炎を引き起こす.患者の口腔咽頭および食道嚥下機能の障害は、ベッドサイドで言語病理学的評価によって確認され、ビデオ透視下嚥下検査によって確認された.
  全身疾患による栄養学的な合併症はしばしば見逃され、患者の予後を悪化させることがある.栄養障害は筋肉と神経の機能を低下させ、おそらくこの患者の炎症性ミオパチーと深い衰弱(debility)をさらに悪化させた.栄養障害は自立性、QOLを低下させ、感染や内臓合併症により生命の危険にさらされるかもしれない.適切かつルーチンの栄養スクリーニングは、Global Leadership Initiative on Malnutrition (incorporating variables of weight loss, low BMI, low skeletal muscle mass, low food intake, and disease burden or inf lammation)に概要が描かれるように、入院患者全てに推奨される.
  今回の症例では、迅速に筋炎と体重減少について評価し治療していれば、栄養障害の合併症は避けることができた可能性がある:彼女の評価が遅れた原因としてCovid-19によって医療ケアシステムへのアクセスに困難が生じたことや、医療保険がなかったこともある.免疫抑制療法と栄養補充療法の後に、彼女は完全に回復し、体重、筋力、血液検査の異常も改善した.

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