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拙い読書感想文「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」辻村深月
辻村深月さんの「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」を読みました。
辻村さんの本
辻村さんの小説では他に「スロウハイツの神様」、「ぼくのメジャースプーン」、「かがみの孤城」などが好きです。
特に「スロウハイツの神様」は伏線回収場面が鳥肌もので、序盤と後半での話を見る視点が変わった時に「この登場人物はそういう風に思ってたんか!」となりました。
みんなといる時は特に波風経てずに過ごしていた描写だったのに、後半その人物の視点からだとそう見えていたのかと小説の話を進めていく際の人物の視点の重要さを感じられました。
僕が読んでみて辻村深月さんの小説は「きれいな」部分はとことん「きれい」で、「えぐい」ところはとことん「えぐい」と感じることが多いです。
「冷たい校舎の時は止まる」での生々しい出血シーンや「朝が来る」での主人公の女の子の妊娠後に彼氏に捨てられた感など。
人間の「えぐさ」が非常にリアルでメンタルの弱い僕は読後に作品によってはかなり病むこともあります。
「こんなにひどいこと言ってくる人なんかおるん?けどおりそう…。」ってなります。
たまに人間不信になりそうになります(笑)
簡単なあらすじと感想
今回の作品でも読んでいて人間不信になりそうなほどに世の中にいそうな人間の嫌な部分がよく見える箇所が多くありました。
あまり意識して書いていないのでネタバレ注意でお願いします。
最初の描写は誰かが母親を殺したのかな?というところから始まりました。
そこから別の人物が周囲の人間にインタビューしているような書き方で話が進んでいきます。
このインタビューをしている女性は最初のシーンで母親を殺して?今も行方不明になっている女性「チエミ」の幼馴染の「みずほ」という人物。
フリーライターをしていて雑誌に載るような記事を書いています。
みずほが聞きこみをしているのはチエミとの同級生だけでなく合コン仲間やチエミの会社の同僚まで。
そこでのやりとりがなかかえぐかったです…。
他にもチエミの小学生の頃の担任の先生とも話をします。
みずほとチエミは小学生の頃から家族ぐるみで仲が良く接していましたが、高校へ進学する際に2人の進路が分かれます。
みずほは進学校の私立に通い東京の有名大学へ。
チエミは地元の公立高校に通い地元の短大へ。
久しぶりにチエミがみずほに連絡を取り、それが合コンへの誘いでそこから他の合コン仲間との関係も始まります。
しかし、みずほはどこか合コン仲間を見下しているようでした。
地方で男を探すことに一生懸命になり1人では生きていけないような他の女性たちのことを。
地元の会社で契約社員として働くチエミはみずほと違って現状に不満があってもなかなか自分から動くことのできない性格でみずほに対してうらやましい気持ちを持っていました。
そんなチエミがある合コンでみずほの大学時に同じサークルに在籍していた大地という人物と出会います。
2人は付き合うことになるのですがこの大地がなかなかのクズ男で…。
チエミは大地と付き合っているというのですが、みずほが大地に聞くと「遊んでいるだけ」という返答。
チエミとは別に読者モデルをしている彼女がいたのです。
みずほがチエミに本当にあんなやつでいいのかというようなことを言いますが本人は大地に愛されていると思っている。
チエミは大地にプロポーズされ指輪ももらいますが結局モデルの方と結婚することになり別れます。
他の合コン仲間には「どうりであの指輪小さいと思ったんだよなー。」とか言われます。
他人の指輪の価値を気にしている描写もしんどかったです…。
チエミは大地と一緒にいるとみずほと同じような地位にいると思えるという理由もあり付き合っていたようです。
みずほは小さい頃からいじめっ子に1人で立ち向かったりクラス委員に進んで立候補したりと自分の考えで行動することができていました。
一方、チエミはどちらかというと引っ込み思案なイメージで勉強もあまり得意ではなく、過保護な両親に相談しなければ自分からは動けないようなそんな子なのでそこがコンプレックスになっているようでした。
この友達に対する自分の立ち位置との比較で落ち込んでしまうというのは自分も少なからず経験があるのでリアルに感じられました。
時は経ってみずほは結婚します。
けれどチエミはいまだ独り身。
子供の頃にビニールハウスでした「同じ年の子供を生もうね。」という約束を叶えるために既婚者であり元彼の大地に連絡を取り、行為をします。
生理が来なくなって子供ができたと確信したチエミは今までなんでも相談してきた母親に喜んで「子供ができた!」と報告しますが相手と結婚することはできないと伝えると猛反対され冒頭の事件が起きます。
感想
登場人物は女性が多いのですが、合コン仲間は他人の結婚指輪を品定めしたり、結婚式に呼ばなかったら絶交と言ってきたり、不倫と分かっていても別れずに付き合っていたりとレベルが低いと言いますか子供じみた感性を持った人が多いです。(レベルが低いと言っている時点で自分も人を見下しているのかもしれません。)
また、チエミの会社の同僚は不満があるのに自分から動けないチエミの様子に苛立ちをみせます。
「私は女だけどここまで立派に自分の力でやってきた!受験も就職も!全部チエミさんがさぼっているだけでしょ。進学校にも行かず契約社員として給料も上がらないって嘆くんなら資格とったり転職したりいくらでも道は切り開けるでしょう。」
というように。
この場面も印象的で実社会でも高学歴の親の子は高学歴だとか収入と学力は比例するとか言われるので考えさせられました。
これは自己責任とかどっちが悪いかとかじゃなくて1人1人が自分で見てきたものと感じてきたものの違いがあるからなんじゃないかと思います。
スポーツができないから勉強してみたら割といけたからそっちに集中して頑張ったとか。その逆もありますし、そもそも勉強自体に意味を見出せなかったり。
勉強ができるようになりたくて勉強ができるようになった人、できるようになりたいと思っていないのにできた人、できるようになりたいと思ってもできない人、そもそもやらない人
本来備わった能力やどの分野に伸ばせる環境に身を置いていたのか、何に興味をもって何を激しく嫌うようになったのかとかもみんなちがうわけで。
自己責任という一言で片づけるにはあまりに複雑に物事が絡み合いすぎているように思います。
それを「自己責任」という一言を投げかけて自分の嫌いな人を批判することで自分の道が正しいと確認して生きていくのも1つの方法なのかな。
資本主義社会はお金をいっぱい稼いでいっぱい持っている人が1番偉いというイメージですもんね。
僕は道徳心のないような行動を平気でするどころか好んでするような人がいるということに耐えられません。
それにも複雑な状況が絡み合っているのでしょうが…。
不倫をしたり故意に人を貶めたり。
そういう場からは離れて過ごしたいです。
情報を脳に入れ込むことすら苦しいです。
本作中で言うと大地のような人とは全く関わらずに生きていきたいとは思いますが、現に知らないだけでもうすでに何かしらの場面で接点を持ってしまっているのでしょうね。
後半に出てきた「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」の意味には結構驚きました。
はじめは事件の日付かなと思っていましたがまさかそういう意味だとは。
単なる銀行の暗証番号という意味合いだけでなくしっかり本を読んでからだとチエミの母親の愛を感じることができました。
いつもチエミの意見には賛同していた母親が妊娠した時にはなぜあそこまで怒ることができたのかもわかったような気がします。
絶妙なタイミングでのタイトルのフラグ回収で愛の形はいろいろあるんだなぁと思いました。
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