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大井川の中流域問題とは


大井川中流域の堆砂状況、後方では搬出作業中。

大井川の中流域問題とは

 
2023/3/27大井川利水関係協議会(平成30年設置。)が静岡県庁にて開催されました。
流域の11利水団体、8市2町と静岡県。今回の協議会開催要請は東海旅客鉄道(株)。オブザーバーは国土交通省鉄道局でした。
この会議のコメントは別稿「大井川利水関係協議会を傍聴して」を参照ください。
 
私の住む川根本町も利水自治体であり、私も利水者の一人です。1リットル単位で管理されている、といった大井川の利水協議会ですので、重要な会議です。
 
一方、上中流域には電源開発による固有な課題が存在します。
「水返せ運動」時期の1985年には「大井川中流域技術検討会」が開かれ、土木工学的な改善策を検討しました。
また、「大井川中流域検討会」が開催され、より包括的な検討も模索されました。ただ、中流域の人口は、流域の人口の1%に過ぎず、圧倒的に少数(マイノリティー)です。電源開発という広域的事業は優先されます。
当時の故徳嶋中川根町長は「川根人の大井川への気持ちを伝える場面などないんだよ。」と吐露したことを記憶しています。電力会社、行政がお金でできること(土木事業)を検討する制約のある会議だったと認識しています。人々は川との共生を望んでおり、親しみたいのです。


表流水は放水されているが、川に親しむ状況とはいえない。

ダム上流の堆砂

電源開発ダムの建設により、大井川本流では塩郷堰堤上流での堆砂が促進されました。1960年の竣工ですので、すでに63年経ちました。ちなみに、現在話題になっている田代ダム竣工は1928年ですので、まもなく100年になります。早川電力(今は東京電力)のDNAを感じさせる開発史の一端です。
私の住む所は塩郷堰堤より6㎞上流となります。堆砂により絶えずトラックによる堆積土砂の搬出作業が行われています。皮肉な事に、エンドレスな新たな公共事業となっています。
電力会社は大井川本流での堆砂は認めていない、と聞いています。しかし、支流の笹間川、境川などでは、ダムの建設後の堆砂により、居住できないお宅では、補償による移転が生じています。
1990年の建設省長島ダム竣工以後、洪水調節により軽減はされましたが、幾たびの浸水被害がありました。
近年は本来大井川河川敷の遊水地であった地域にも集落が形成されています。浸水地域はそういった地域が多いとは思われます。しかしながら、建設許可の下、住宅は建設されてきました。
暴れ大井川の水が、堤防を乗り越えて浸水する従来の被害パターンではなく、大井川の堆砂により、集落の下水が排水されず、雨量によって、大井川の表流面と集落の下水面がフラットになり、下水賂から逆流してくるものです。
日常的にも、支流の土砂が大井川に排出されません。2022年11月の台風15号による大雨の際も、多量の雨量により、あらゆる沢から排出された土砂による被害が甚大でした。大井川がそれらの土砂を受容できないのです。


上流を望む。

発電所間を導水管にて送水することによる表流水の減少

1945年終結した大戦下、戦時の電力維持のため、水を大井川から取水したまま、次の発電所まで導水管にて送水し、大井川に放流することなく再利用されました。現在もこのシステムは貫かれ、上中流域の表流水は激減しました。大井川は今もなお戦時体制が維持されているのです。
塩郷堰堤下流は「河原砂漠」となり、1980年代から行われた「水返せ運動」の直接的な原因となりました。流域住民が訴えなければ、こういった事態になることを知りました。こういった「河原砂漠」は、市民のチェックが及ばない源流部にも現出しています。広大な河原に一滴の水もなく、大雨時は放流賂としてのみ機能する大井川の姿です。
発電用水はその役割が終われば、川に戻されるか、次の用水に再利用されます。したがって、そのプロセスはどうであれ、徹底的に経済効率性が追求されてきました。電力会社は社会の要請に従った、ということです。ただ、正常な川の機能や公共財という意識を失っています。住民は電源開発を電力会社に付託していますが、独占を認めているわけではありません。

コモン(公共財)としての大井川を取り戻そう

私は日本国内の<グローバル・サウス>問題と捉えています。公共財である川が経済的収奪対象となっています。
防衛、軍事の沖縄。原子力発電における福島。
クリーンエネルギーと標榜されている水力発電における大井川。収奪構造を残したままの成長経済は、既に限界を露呈しています。経済モラルとしても破綻しています。新たな持続可能な事業を模索していかなければなりません。
 
矛盾は上中流域に集約されているようにみえますが、駿河湾に至って海岸線が後退し、テトラポットに埋め尽くされたり、磯焼けにより駿河湾の稀少な生態系も脅かされます。
 
このような人間の経済活動の下でも、南アルプス、大井川、駿河湾に囲まれた私たちの流域は、なお多くの恩恵をいただいています。私たちも自然の一部、という認識のもとに共生を求めていくことが、コモンにつながる道なのです。4/6/2023

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