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元プロサッカー選手との合コンで、僕はカバオと化した

【自分と自分の知り合い数人と知らない異性達で、居酒屋で愛だの恋だの昔の武勇伝などを語り合いながら狂ったように飲み交わす原始人みたいなイベント】、いわゆる”合コン”で、人間としての尊厳をボロボロに踏みにじられ、男としての誇りをズタズタに引き裂かれ、感情を無くし、心を無くし、単なるタンパク質になりました。

10数年前、当時とある少年サッカークラブでうだつの上がらない雇われコーチをしていた僕は、この少年サッカークラブの代表兼監督(以下仮名Yさん)、もう一人の同い年の先輩コーチ(以下Mさん)とクラブの練習後によく、その日の練習の振り返りと反省会と情報交換を兼ねた晩御飯をすることが多々ありました。

代表兼監督のYさんはいわゆる元Jリーガーで、世代別の日本代表にも選出されていたり、日本屈指の強豪クラブであるアソコや、今はJ1常連クラブであるアソコや、かつての名門クラブであるアソコなどにも在籍経験があり実際に試合出場もしていた本物選手で「何をもって日本一か分からない評価軸での日本一を名乗る、ピンポイント技術で以てSNSでだけバズる人」や「アーセナルの下部組織にいました(1回スクールに参加しただけ」みたいなのとは明らかに一線を画すガチプレイヤーなうえ、老若男女誰にでも気さくに話しかけてくれる親しみやすい人柄と、引退して何年か経過していたあの頃であってもルックスは抜群、当然知り合いもみんなJリーグ関係者でまさにイケメンJリーガーが服着て歩いているような存在でした。

またMさんも海外でプロ経験のある若いコーチで、海外仕込みのサッカーの上手さはさることながら、真面目なときと悪ふざけのときにとてつもなく大きなギャップ萌えがあり、愛嬌と厳しさを兼ね備えたみんなに愛されるコーチとして、奥様方にとっては頼れる相談役、コーチ陣のなかでも中心的人物、そしてちょっと抜けたところのあったYさんを支える名参謀として、この少年サッカークラブに欠かすことのできない存在でした。

そして僕はというと、サッカー経験なぞ皆無に等しく、中学・高校ではスラムダンクに憧れてバスケ部に入部したものの練習が嫌すぎて腰痛を口実に休みまくって家でFF8に明け暮れ、サカつくとウイニングイレブンとサッカーダイジェストでサッカー選手の名前を覚えたような単なるサッカー好きで、上二人のようなサッカーに対する知識も技術もまったく無く、日頃から運動不足で、健康診断では当時20代なのに医者から脂肪肝を診断されるような体型・食生活を送っていたハイパーメタボリック凡骨野郎、略してメタ凡でした。

そんなある練習オフの日、家でモンスターハンターをやりながらコーラがぶ飲みしていた僕にMさんから、
「実はYさんが知り合いの女の子達とご飯するんですけど、まきまきさん今日の夜空いてます?」
と連絡が入りました。

上記のようにとても真っ当な人間の暮らしとは思えないような自堕落的生活を送っていた僕には当然女友達どころか異性の知り合いすら存在しておらず、彼女とか空想上の生き物でしかなく、休日は家でひたすらガノトトス亜種を狩りまくってた僕からすれば、”女の子”と言えばネカマでしょ?くらいにしか考えておらず、”食事”とはネコ飯のことを指し、”空いてます?”なんてワードは金銀夫婦尻尾リタマラまだ空いてます?でしか用いたことがなく、この誘いを受けた瞬間、えっ・・わ、わたしみたいな小汚い子がそんな場所に行くなんて・・・でも・・・ちょっと行ってみたい気持ちもあるけど・・・いやいやダメダメ私はせいぜい家の中を掃除してるのがちょうどいいのだわ・・でも・・・・と、お城でのパーティーに行けなかったシンデレラの気持ちに近いものでありましたが、ほんの僅かな淡い期待と20代という若さゆえの性欲の暴走もあって、
「空いてます」
と、答えました。

それが、これから起こるすべての悪夢の始まりでした。

その夜、指定された時間と場所に向かった僕とMさん。
そこは個室のある普通のチェーン系居酒屋でしたが、あまり大勢での飲み会や食事会というものに参加してこなかった僕からすると、禁じられた未知の島に足を踏み入れるような、初めて遊園地に遊びに来た幼児のような、青年から大人への階段を一歩ずつ上る、そんな気持ちでした。

店内に入り、シックなユニフォームに身を包んだTHE・オシャレ店員さんに誘導され、たどり着いた個室部屋にはすでにYさんが到着しており、
Y「おつかれ~」
みたいないつもの軽いテンションでお出迎え頂き、
Y「女の子達、これから来るってさ」
と、この元Jリーガーと元海外プロサッカー選手と一般人を待たせるなんてどんだけ大物女子なんだこのヤロウと怒りの気持ちをぐっとこらえ。
それから待つこと数分、店員さんに促されて3人の女性達が入ってきました。

沢尻エリカと、香椎由宇と、やす子が襲来しました。

沢尻エリカ似と香椎由宇似はちょっと盛りすぎました。加工しすぎました。snowかってくらいに加工しました。でも、やす子似はマジで自衛隊服着てないやす子でした。
話を聞くと、確か保育士?だったかなんかでみんな同じ職場だったと思うんですけど、冷静に考えると保育園勤務なのに沢尻エリカ系ファッションでいる女性っていうのが結構ヤバいし、香椎由宇はともかく、やす子はむしろ好感度が上がりましたがやす子なのに変わりはなく、YさんもMさんも明らかにやす子への扱いは他二人とは違ったんですけど、兎にも角にもここに、
元Jリーガー、元海外プロサッカー選手、脂肪肝のメタボ凡骨
VS
沢尻エリカ、香椎由宇、やす子
の戦いの火ぶたが切って落とされたのです。

それは、一方的な殺戮でした。

沢尻、香椎、やす子ら女性陣達は、YさんのJリーグ話、Jリーガーの豪華絢爛な暮らしぶりの話、Jリーグ全盛期の給料の話、契約更改時に「守備でも貢献するから給料増やせ」と言ったらフロントに怒られた話、海外遠征先での自由時間に街に繰り出したときの話、当時の有名日本代表選手達の裏話などなど一般人には到底知りえないようなYさんの軽快で楽しいトークに心を躍らせ耳を澄ませ、またもう一人のMさんの海外暮らしの話、日本と海外の文化的な違いの話、そして海外プロサッカーの現実、海外の治安の悪さの話、現地外国人との甘い話などなどのトークをまるで木の蜜に群がる昆虫のように食い入っており、翻って僕が熱く語りまくった、地元のスーパーのパンが美味しい話や、お酒一切飲めないのに医者に「アルコールを控えてください」と診断された話、親知らずを抜いたのに顔が小さくならなかった話、地元の広報誌でインタビューされてた記事を母親が切り抜きして大事に保管していた話などには一切興味を持たず、そのうち僕はただみんなが注文して残したものをひたすら食べるだけの「バクバクの実の能力者」あるいは「残飯処理係」と化していました。

今になってよくよく考えてみれば、Jリーガーであればこの手の合コンなどもはや日常茶飯事、毎日嫌というほどに女性達と接したり、一般人では話すどころか視界に入ることすら許されない芸能レベルの美人と合法的に知り合ったり、望まずとも女性ファンと交流できたり、なんなら会話するだけで神対応でした!一生推します!とネットで称賛されまくっていたことでしょう。
また海外暮らしの長いプロサッカー選手であればそのメンタリティは徹底的に磨き上げられいて、一般人とのコミュニケーションなどお手の物、むしろ寄ってくる女性陣を吟味して選ぶ側だったことでしょう。
そんなアンリ、トレゼゲ級超強力2トップに対して、これまでの人生で女性との縁や関係性も皆無で彼女ってなに?嫁?リオレイア?しか連想できないイカレ頭に加えニコニコ生放送で女性生主にコメントすることとゲーム実況放送を朝から晩まで聞きまくるくらいしか生きがいのなかった実家暮らしの僕である。どこからどう見てもこれ以上ないくらいの単なる数合わせ。部員人数足りなくて試合ができないから吹奏楽部から部員借りて試合をした野球部よりもひどい数合わせ。今回の参加条件が【人間であること】だったから参加できたようなもので、もし参加条件が【霊長類であること】だったらチンパンジーのほうがよっぽど人気者になれたからもしれません。完全なるモブキャラ、いや雑魚キャラワンパンぶちスライム野郎でした。
例えるならば、ライオン、虎ときての、タニシのようなもの。
もう少し分かりやすく例えると、

青眼の白龍、ブラックマジシャンからの、モリンフェン。
孫悟空、孫悟飯からの、バクテリアン。
拡散ライト、拡散ライトからの、ハンマー。
カレーライス、ハヤシライスからの、クリームシチュー。
天丼、カツ丼からの、釜飯。
アンパンマン、カレーパンマンからの、カバオ。
そんな存在である。

女性たちの視界にはもはやYさんMさん2人しか入っておらず、気が付いたら料理が運ばれくるしお酒が追加されるし酒にもやたら強いイケメン2人のペースに付き合ってきた女性陣はアルコールがかなりまわってきた様子でだんだんとイケメン2人との距離感も近づいてきてなんならちょっと肌当たってませんか?体温感じてませんか?あっ腹筋すご~いなんて会話も始まってますが、その間に運ばれてきた料理の大半は僕の胃袋におさまり、僕とその他5人の距離は物理的にも心理的にもどんどん離れていって、肌というか脂肪はどんどん内臓組織に蓄積され僕の体温も心も完全に冷え切って腹筋ではなく皮下脂肪すご~いとか自分で思ったり、さすがに母親も心配になってよく分からないサプリを買ってくれたこともありましたがまったく飲んでいませんし、帰るタイミング完全に失ったし、この支払はやっぱり割り勘なのかな今頃イベントクエストでラオシャンロンきてるから早く帰りたいななどなどとにかくその場で完全に孤立無援状態となった哀れな霊長類カバオことまきまき。そういえばカバオって霊長類と哺乳類どっちに分別されるんでしょうかね。

ただ、そこはさすが合コン百戦錬磨のYさんとMさん。
こんな哀れなカバオにも救いの手ならぬ触るだけでゴールになりそうなキラーパスの如く「まきまきも面白いやつだよw」、「まきまきも構ってやってよw」と女子軍団に言い放つも完全に(こいつ、かわいそうだな)感しかなくてまったくもって裏目に出ていました。
いや、今になってよくよく考えたらあの言葉も【モテないやつにも気を使える優しいオレ】の演出だったのかもしれませんし、そういえばなんとなく目元はニヤニヤしてる感じな気がしてきたし、女子連中ももはや僕の事など眼中どころかこの世に存在していないかのようにYさんとMさんを取り囲み、愛とはなんだ、恋とはなんだ、最近恋愛してるの?どんな人がタイプ?S?M?エビフライの尻尾は食べる?唐揚げについてくる葉っぱは何?パフェに乗ってるミントうざくない?カレー頼んだ時に出てくる紙ナプキンで巻かれたスプーンは使いたくなくない?茶わん蒸しの当たりはずれのデカさは異常じゃない?なんでクリームシチュー専門店は存在しないの?空はどうして青いの?太陽はいつまで燃えているの?宇宙の果てはどうなってるの?我々人間はどこからきてどこに向かっているの?人間はなぜ生きているの?僕はなぜ生きているの?僕はなぜ合コンに来たの?僕が頼んだはずのチョコアイスをなぜ沢尻とYさんが分け合って食べてるの?Mさんは香椎由宇とお尻のサイズについて熱く語っているけどそこに何の意味があるの?やす子は何をしてるの?なぜ?なぜなんぜなzんあえsなえんざえあえなんっぜねんzz?。

このあとのことは、記憶にありません。
唯一覚えているのは、Yさんと沢尻エリカが夜の街に消えていったことだけです。

支払いはYさんがすべてしてくれました。イケメン過ぎて好きになっちゃう。

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