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シンプルかスカスカか――石破新首相の所信表明演説 ポイントは防災庁と避難所 

石破茂新首相が10月4日、衆参本会議で就任後初の所信表明演説に臨んだ。評判は上々とは言えない。立憲民主党などの野党は、自民党総裁選中に、訴えていた外交・安保や経済政策、社会政策のうち、かなりの部分が抜け落ちていた点を突いて批判する。それ以前に、首相になったら、野党とじっくり国会論戦し、国民に判断材料を与えた上で信を問う、と言っていたのに、就任したら、臨時国会の会期はたったの9日間、10月15日に衆院を解散し、27日に投開票と決定。手のひら返しだと、野党は追及する。

総裁選の時の〝公約〟からアジア版NATOの創設や日米地位協定の改定、選択的夫婦別姓の導入などは含まれず、立憲民主党の野田佳彦代表は「近来まれに見るスカスカな所信表明演説」と酷評、他の野党も同様の評価だった。

演説は概ね、岸田文雄前首相の路線を踏襲する内容で、口の悪い評論家は「第3次岸田政権だ」と皮肉った。新聞各紙も、石破氏らしさが伝わらない、など手厳しい。

岸田前首相との違いで目立った点はと言えば、「最低賃金を2020年代に全国平均1500円という高い目標に向かって努力」や「地方創生こそ成長の主役」「『新しい地方経済・生活環境創生本部』の創設」「専任の大臣を置く防災庁の設置に向けた準備を進める」くらいだろうか。長年の〝冷や飯〟時代に全国を歩き回り、地方の実情に耳を傾け、それが党員・党友の人気を集める源泉になった石破首相だけに、地方に肩入れする姿勢が見える。

筆者が注目するのは、防災庁の設置への意欲を示したくだりである。演説では、これに続いて、日本の災害時の避難所での生活の厳しさをかなり詳しく紹介し、「災害関連死ゼロを実現すべく……発災後速やかにトイレ、キッチンカー、ベッド・風呂を配備しうる平時からの官民連携体制を構築します」としている。

防災庁については、政府・与党の中に「内閣を中心に関係省庁が連携しており、これを強化する方が良い。新たな省庁を設けるのは、屋上屋を重ねるもの」という批判も根強い。それでも、石破首相が持論を演説に盛り込んだところに、強い意志、こだわりを感じる。

それはそうだろう。政府や自治体の災害対応の連携がそんなにうまくいっているのなら、なぜ、能登半島地震では、小中学校の冷たい床に段ボールやシートを敷いたところに横たわり、発災から何日もろくに水やまともな食べ物も配られない避難所があちこちに存在したのだろう。この状態は、筆者の知る限り、1995年の阪神・淡路大震災でも、2011年の東日本大震災でも、その後の地震や洪水・山崩れなどの災害でもずっと変わらない。

そのことについては、拙著『それでも昭和なニッポン 100年の呪縛が衰退を加速する』にも書いた。政府・与党の従来のやり方に任せていたのでは、今後も変わらないだろう。少なくとも、石破政権には、まず、ここから改革の手をつけてほしい。明日にでも。


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