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おヘソのハナシ③


この話は、前回の↑の続きになります。

本格的な手術になるということで、その後の外来は術前検査のフルコースだった。
心電図やら血液検査、麻酔科の先生からの説明。広い大学病院の中を外来のたびに、あっちへこっちへと動き回った。おヘソが痛いだけなのに・・。

日帰り手術をした時の梅雨空は、すっかり青一面の夏空へ向かっていて、バス停で降りる度にだんだんとセミの鳴き声もうっとおしくなってきた。

術前検査で最も忘れられない出来事があった。
それは教授による術前診察。
担当医のおっとり女医さんも外来の時に、ふわっと説明してくれた。
「教授が手術する部分を診てくれて、周りにも人がいるから、ちょっとビックリしちゃうけど、すぐ終わるので大丈夫ですから」

そんな説明を私は鵜呑みにして、当日の外来を迎えた。
診察の行われる、広い診察室に入って思った。
説明・・ふわっとしすぎだろ。担当医、大丈夫かよ。
そしてその予感はあとで的中するのだった。

いつもの外来の診察室の倍はある広さ。入って数歩いくと奥に大きいベッドが1台横にドーンとあって、軽い処置もできそうな雰囲気。足元になるベッド左側には白い白衣を着た人が沢山並んでいて、頭になる右側のベッド端に椅子があって、そこに教授が座っていた。

「はい、どうぞー」

私は教授というから、もっとどっしりした恰幅の良い人か、スマートなインテリ風な人かと思っていたが、中にいたのは寺島進みたいなコワモテの眼鏡かけた人が緑の医療用スクラブ(最近は医療ドラマでこれを着ていることが多い)の上に白衣を羽織っていた。

担当医二名は教授の横で緊張して立っている。

「そこ座って」
ベッドに座って、手術するおヘソの診察を受けた。
手術内容やスケジュールなんかを担当医と私に話してくれた。なんだ、大丈夫じゃないかと思った、次の瞬間だった。

私の顔をしばらく見てから
「これは・・いつからあるの?」
と私の上唇にあるホクロについて聞いてきたので
「わからないですけど、気づいたらありましたね」
と答えたら、次に教授はあのおっとり女医さんに向かって、こう質問したのだ。
「ところで、君はこれについてどう思うかね?」
彼女は少し考えてから、突然
「えーーと・・・。チャームポイント・・よねぇ?」
と言い出したのだ(笑)
申し訳ないが、このホクロをそんな風に思ったことは一度たりともない。

焼きそばなんて食べてないのに青のりついてるみたいに見えたり、口紅でも誤魔化せないのがとても嫌だった。
私が「いや・・」というのと同時くらいだった。
「バカヤローーーー!!違うだろ!!粘膜にできるホクロを知らないのか!癌化しやすいから除去すべきだろう!」
突然、たけし映画がはじまったのかと思うような怒声を教授があげて、おっとり女医さんもアワアワしている。
大柄な男性の方の担当医はそのやりとりを黙ってみていた。
もしや、このおっとり女医さんは他の先生方からも不思議ちゃん扱いされてるのか??私も、粘膜にできるホクロは取った方がいいみたいな、そんな家庭の医学的情報なら聞いたことあるぞ。
耐えられない・・自分が手術をお願いしている担当医がこんなトンチキな回答して怒られている、この空気。明らかに医学的な問題点として教授は質問してただろう・・。

慌てて間に入って
「取ります、取ります!私も化粧とかする時に気になってたので!」
と答えたことで、オプションで唇のホクロ除去も受けることになった。これはついでとはいえ、ちょっと嬉しかった。

数年後ーーーー、私はこの教授をテレビで観た。
韓国の整形依存症の方が、日本で治療すべく緊急来日した際にこの教授の下で検査と診察を受けていて、その世界ではとても権威ある方として紹介されていて、そんな人に、あのやりとりしたおっとり女医さんってスゴイな・・と改めて思ったのだった。

つづく。









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