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「空振り三振」「ソフトクリームが溶ける」「線香花火」をイカします! #100日間連続投稿マラソン

 イカスミパスタっておいしいよね、という方はまずこちらからお読みいただけると嬉しいです(*'ω'*)

 今日のお題は、百瀬七海さんからご提供いただいたお題をイカさせていただきます!イカ変態、栄養(お題)不足で生き残れなーーい…とつぶやいたら、ココアみたいにあったかい即レスをくださいました。七海さん本当にありがとうございます(*´▽`*)



「空振り三振」

くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン

 義男はお昼過ぎからずっと居間のテレビを占領していた。やっと始まったプロ野球、因縁チームとの三連戦、そのチームから最近移籍してきた選手が義男の推しだ。彼は義男と同姓同名だった。それを知った途端、義男は彼がとてもかわいくなってしまって、ホームランを放ったときの雄叫びや筋肉の太い肩、凛々しい眉と優しげな目が気に入った。その彼がやっとスタメンで出場する今日は、こうして二時間も前から座って楽しみにしているのだった。

 時計の針が、やっと待ち望んでいた形に収まった。義男は家内のさち子に麦茶のおかわりを頼んだ。よっこいしょ、と立ち上がったさち子と入れ替わりで孫の悟志がやってきた。まだ不安定な歩き方で壁をつたい、テレビの画面を触ろうと励む。義男が膝に呼ぶと、一歩、二歩、三歩、最後は転ぶようにして座った。

「いいか、お前もよく見て野球選手になれよ」

 悟志は、まま、まんま、と答えた。

 一番が早速デッドボールを受けた。投手の謝罪の仕方に解説者が苦言を呈す。義男も卓を叩いた。二番は初球をライト前に飛ばした。大歓声。そしてさあ三番に、義男の名前が呼ばれる。義男はもう一振りバットを回すと、一礼してバッターボックスに入った。義男は手を叩いた。悟志も真似した。

 初球。スライダー、低め。ボール。

 二球目。スライダー、低め。ストライク。インコースを攻められる。

 三球目。チェンジアップ。振らされかけたが留まった、ボール。

 四球目。ストレート、低め。ストライク。

「速いな!」義男は思わず叫ぶ。

 五球目。ストレート、高め。カット。

 六球目。

「気をつけろスライダーだ!」

 義男のバットは球めがけて空気を切り裂いていく。芯に当てれば場外まで飛ばせるような、豪快で美しいスウィングだ。バットはまっすぐ愚直に進み、あと少し、ほんのちょっとで届く、その時、球は消えるように急降下して地面スレスレでミットに収まった。

 バットは悲しげに空を切った。義男はスウィングの勢いそのままに捻じれて回転し、よろけた。

「こんちくしょう!この、義男、ばかたれ!」

 義男はこぶしで卓をぶった。リモコンと眼鏡が跳ねて音を立てた。

 悟志が手を叩いて笑い始めた。

「この、よしお、ばかたれ、よしお、ばかたれ」

「ん?」

「この、よしお、ばかたれ」

「おい、やめろって」

「よしお、ばかたれ、よしお、ばかたれ」

 悟志は楽しそうにあぐらの中を跳ねた。やっと麦茶を持ってきたさち子がそれを見て笑い転げた。


 







「ソフトクリームが溶ける」

くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン

 その公園はふたりのお気に入りだった。狭くなく、かといって息ができなくなるほどだだっ広いわけでもない、葉桜の林でできた境界線がしっかり確認できる広さで、子どもも、大人も、お年寄りもいた。明るい色の遊具は西のほうにかたまってあった。北には大人用のちょっとした健康器具があったり、あとはベンチと花壇がある。よくキッチンカーが出た。メロンパンやクレープを売ったり、たまには珍しいおにぎりの店もやってきた。

 僕たちは病院の帰りにここへ寄ることが日課みたいになっていた。園の中をゆったり歩いたあと、花壇の新しい花の名前を当てっこして、ソフトクリームをふたつ買った。ベンチには桜の葉っぱや小枝が落ちていて、それを優しく落とす三奈の手。

 ソフトクリームは冷たいのにあたたかくて、とても甘い。だんだん舐めるのが追いつかなくなって、ついに一滴ぽとりと垂れると僕の手の甲を流れていった。僕は彼女を見た。三奈のソフトクリームはまだ形を保ったまま、涼しそうに三奈に食べられている。

 まただ。やっぱり、またこうなった。

「僕のほうが、早い」

「本当だ」三奈がのぞき込む。「熱がある?」

「ううん」

「そっちだけ日が当たっちゃってる・・・わけでもないか」

 三奈はトートバッグからティッシュを出して渡してくれた。

「僕って、なんか、いつもこうなんだよね」

「こうって?」

「ソフトクリームもそうだし、僕が持つ花火ってすぐ消えちゃうんだ。線香もそう。こないだお墓参りに行ったけど、そのとき僕が立てた線香が一番に短くなったんだ。小学校のとき、みんなで育てた朝顔も僕のが一番に枯れた。最近はスマホの充電が減るのもすごく早い気がしちゃってしょうがないんだ、まだ買い替えたばっかりなのに。僕のまわりだけ、時間の流れが速くなってるというか、生き急いでるみたいな感じがして、僕だけ、みんなより早く、死んでしまうような気がして、怖くなるときがある」

 三奈は小さくうなずきながら最後まで聞いてくれた。

「ごめん、また変な話した。薬が効いてない」

「ううん」彼女は微笑んだ。「分かった、じゃあこうすればいいんだ」

 三奈は自分のソフトクリームを僕のほうに差し出し、僕のを丸めたティッシュごと受け取った。

「運命共同体になろうって、こないだ言ってくれたよね?」

 三奈が僕を見つめて微笑んだ。

 僕も、力を込めてうなずく。そうだ、そうだった。

 一滴、また一滴としずくが彼女の両手に落ち、白い筋を描いて流れていく。その左手の薬指で、銀色の指輪が光っている。









「線香花火」

くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン

 オレンジ色の火の玉が少しずつ大きくなる。まるでひとつのしずくが今から垂れようとしているみたいに、紐にひっついて、風が吹くと変形しながら揺れる。音がする。ぼくはこの音を文字で書いてみたい、でも、何て書けばいいのか分からない。心地よくて、喉の奥を刺激するみたいで、弾けるみたいな、ものすごく小さなものがぶつかり合うみたいな、かたくて華やかな音だ。音といっしょに火花が出て、でも一瞬すぎて、見えたような見えないような、たしかに見た気がするのにもう消えていて、新しい火花が飛んで、それもまたよく見えない。また風が吹いて、いよいよ垂れてしまいそうになって、やめて、ぼくはいつまでも見ていたい。

 袋には四本入っていた。お兄ちゃんと、僕と、妹で一本ずつやった。残りの一本は?

「あみちゃんにやらせてあげなさい」

 お母さんのひとことで、妹がジャンプして喜んだ。どうせ持っていることしかできなくて、しずくもすぐに落としてしまうくせに、ぼくならもっと優しく、手を震わせないでいられるのに。

 火がつけられる。

 小さな玉はチカチカと震えながら、あの音とわずかなけむりを出して少しずつ大きくなっていく。

「お、いいぞ、あみ。上手じゃないか」

「でしょ!」

 お兄ちゃんが叫ぶ。

「おい!よそ見すんな!」

 紐がぐらりと揺れ、風が起きた。

 火の玉のしずくが根元をさらわれ、引きはがされるように、あっけなく紐を離れていく。やめて、まだ見ていたいのに、ぼくは思わず手を伸ばした。

 

 手の平が、突き刺されたみたいに痛んだ。


「馬鹿野郎!!!」

 お父さんが水の入ったバケツをぼくの頭の上でひっくり返した。あみの悲鳴。腕を引っぱられて家の中に入ると、洗面所の蛇口がめいっぱいひねられ、そこに右手が突っ込まれた。しばらくそのままにしていなさい、お母さんの声。お父さんはどこかに電話をかけ始めた。玄関のほうからはあみの泣く声と、なだめようとするお兄ちゃんの声が聞こえる。

 手の平の真ん中で、何かがくしゃくしゃに崩れている。それが皮膚なのか、火の玉のかけらなのか、分からないけれどぼくは少しだけ嬉しくなった。







 #100日間連続投稿マラソン 11日目でした!お付き合いいただきありがとうございました(*'ω'*)

 七海さんにいただいた栄養のおかげで、久しぶりにわくわく楽しく書くことができました!ありがとうございました!

 イカ変態を応援してくださるみなさまのおかげで、あと27日は栄養が取れて生きていられることになりました!本当にありがとうございます!自分ひとりじゃなくて、みなさんと一緒にマラソンしてもいいんだな(*´▽`*)と、心が軽くなりました✨みなさんに面白い!と思っていただけるものを毎日書いていきたいです!がんばります!


 Twitterにて【おしりがかゆい】のお題をアナウンスさせていただいたところ、仲 高宏さんがイカしてくださいました!


 短文で、すごく鮮やかなイカです!ぜひご覧ください(*'ω'*) そしてみなさんも【おしりがかゆい】のイカ、やってみてくださいね🦑

 それでは、また明日お会いしましょう(*´▽`*)/


サポートをお考えいただき本当にありがとうございます。