「爪を切る」をイカします! #100日間連続投稿マラソン
今日は船石和花さんからいただいたお題をイカします(*´▽`*)
「爪を切る」
くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン
不規則な高音がすぐ近くで聞こえてきた。音は突然始まり、ひとつ、ひとつと鳴るたびに私の意識と結びついて大きくなった。ひとつ、またひとつ、明るく湿っぽい森の景色が薄くなっていき、音だけがくっきりと残った。真っ暗だった。懐かしい生活のにおいがした。安い芳香剤と、カーテンに染みついた湿気の、におい。
目を開けると、すぐそこに褐色の裸足があった。そのままゆっくり見上げると、男と目が合う。
「起きたんか」
「何してんの」
「見て分かれ」
弘は白い歯を見せた。白いTシャツ。彼は床に広げた新聞紙の上に座って、左の足指をよく調べていた。
「やり過ぎたわ、血でた」
「なんで顔の前でやるの」
「いや、反対向いたらお前の鼻先、おれの尻だよ。それは怒るじゃん。さっき風呂入ったし、足きれい」
「そういう問題じゃない」
弘は長い脚を窮屈に折り曲げて座っている。そのすぐ後ろにはおとなりさんとの間を仕切る壁がそびえたって、カーテンの隙間からの光を浴びていた。私のつま先の先には私たちを押し潰すように円卓と冷蔵庫とカラーボックスとその上に電子レンジ。トイレのドア。干したままの洗濯物。私の意識はやっと形を持ち始めて、そうだ、そうだった、私は森の妖精と遊んでいるかわいい小人ではなくて、壁のうすいボロアパートの住民で、東中野市民で、駅前のファミリーマートのバイト店員で、彼の彼女だった。
#100日間連続投稿マラソン 15日目でした!お付き合いいただきありがとうございました(*'ω'*)
サポートをお考えいただき本当にありがとうございます。