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「手をつなぐ」をイカします! #100日間連続投稿マラソン


 今日も船石和花さんにいただいたお題をイカします!和花さんありがとうございます(*´▽`*)



「手をつなぐ」

くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン

 公園の入口までくると、彼は私の手からぱっと抜け出て走っていった。麦わら帽子が風に落ちた。砂埃。彼にはほかに構わなければいけないことがたくさんあって、例えばカラフルな石の階段、熱っぽいすべり台、象のかたちの水道、砂、桜の葉っぱ、さっちゃんがつくる泥だんごの輝き、帽子はもう思い出になって地面を転がっている。

 ここ二週間くらいで、彼は私が差し出す手をあまり喜ばなくなった。これまではごく普通に、呼吸するみたいに彼の小さな手は私の中に吸い込まれてきたのに。こちらが出し遅れると、彼の右手はよく宙をさまよって探していたのに。そのお菓子みたいな、ミニチュアみたいな指。「かわいいから食べちゃおっかな」顔を近づけてそう言うと、弟は必ず目をきつくつぶる。悲鳴みたいな笑い声を出す。そのとき見える歯が白くて、小さくて、これで本当に咀嚼ができているのか不思議に思ってしまう。

 彼はさっちゃんに泥だんごの講義を請い、砂で泳ぎ、すべり台をよじ登って空に手を振った。麦わら帽子はついに思い出さなかった。家に帰ると、おやつを食べて、自分のお母さんを玄関で出迎えて、夕ご飯を食べ、お父さんを出迎え、お風呂に入るまでにひとりで紙の剣をつくり、出てからはアニメのビデオにかじりついた。私は自分の部屋でレポートの続きを書き、教授といくつかのメールをやりとりした。(お母さん)がきて、麦茶のコップを机に置きながら、

「今日もシュンのことありがとう。もう、暴れん坊でしょ」

「はい、まあまあそうですね」

「いつもありがとうね」

 軽く会釈を返す。目が合って、今日も睫毛が綺麗に反っていた。

「もう寝るみたいだから、またお願いしてもいい?」

「全然」

 ふすまを開けると、弟は紺色の宇宙の中で毛布の上に横たわり、からだを左右に転がしていた。おでこに光の線ができると、慌てて目をつぶる。

「起きてる子がいるなあ」となりに横になると、彼は前髪をくしゃくしゃに振って否定した。お風呂の熱がまだ残っている。天井の電灯がナイトモードの光をたたえて、絵本に出てくる太陽みたいだった。公園でのできごとを聞くと、彼は自作の泥だんごの美しさと肘の擦り傷を自慢した。すべり台でぶつけたらしい。太陽が揺らめいた。シャンプーと毛布の甘い香り。弟の頬から溢れ出る熱。

「ねぇね、て」

「え、嫌なんじゃないの」

「よるはいいの」

 毛布から何かが這い出してきて、私の肘の内側をさまよった。

「よるだからいいの」

 両手で包んでやると、彼は悲鳴みたいに笑った。それはお菓子みたいで、湿っていて、熱くふかふかして、尖った爪がちょっと痛くて、ひとつの生き物みたいに私の手の中で動いた。








 #100日間連続投稿マラソン 16日目でした!お付き合いいただきありがとうございました(*'ω'*)

 いつも読んでくださって、また、スキやコメントをありがとうございます。そのおかげで小川は前に進んでおります(*´▽`*)/ 




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