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私の清涼剤

ただじっとしているだけでも
大粒の汗が噴き出してくる。
熟れすぎたフルーツのように
微かにすえたような香りを含む熱帯の空気は
煽情的で息をするのも苦しくなる。
 
汗に濡れた彼の筋肉が太陽に照らされ
きらきらと輝いている。
彼の胸に頭を載せ太ももに脚を絡める。
 
インドネシア諸島に吹き込む貿易風が
いつの間にかビーチコテージにも流れこんでくる。
 
一ミリの隙間もないくらいわたしの体を
密着させているにもかかわらず
愛し合った後の二人の体液が少しずつ乾き始め
気化熱が次第に二人の火照りをさましてくれるのを感じる。
そして彼の心臓の鼓動を聞いていると
わたしはいつの間にかまどろんでしまう。
 
彼は一切の思考が停止しかけているわたしに向かって
わたしの好きなモームの物語を語り続けてくれている。
彼とモームの短編と波の音に抱かれながら
再びまどろみ始める。
 
これがわたしの とっておきの清涼剤。

Mr. D

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