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『たのしいムーミン一家』旧版・新版比較_第2章②

旧版と新版とでは大きく改訂されている
『たのしいムーミン一家』の比較
第2章①はこちら↓

さて、今回は

(左)1948年版 (右)1968年版

ムーミントロールが何ともグロテスクな
「カルフォルニアの王さま」
に変身してしまった原因はやっぱり
シルクハットではないかと、検証を試みる
スノークとムーミントロールとの会話から。

【旧版】
「そうだな、だれかをおだてて、あの中へはいらせることができるかもしれないよ。」
こういう案を、スノークがだしました。
「だけど、そりゃいやしいペテンだよ。二どともとへもどれるかどうか、わからないものね。」
と、ムーミントロールはいいました。
「にくらしいやつなら、かまわないんじゃないか。」
と、スノークがいいだしました。
「ふむ。」とムーミントロールは考えこんでいましたが、やがていいました。
「心あたりがあるの?」
「たとえばぶたさ。」
ムーミントロールは頭をふりました。
「あいつは大きすぎるよ。」

【新版】
「そうだね、だれかをそそのかして、入れられないかな」
「そうしたいところだけど、元へもどれるかどうか、わからないんだよ!」
「にくらしいやつなら、かまわないんじゃないか」
と、スノークが提案しました。
「ふむ。心あたりはあるの?」
大ねずみは?ぐちゃぐちゃのぬかるみにいるやつ
スノークのことばに、ムーミントロールは頭をふりました。
「あれは手ごわいよ」

新版『たのしいムーミン一家』はP44

「豚」で「大き過ぎる」のか?
「大鼠」で「手強い」のか?
まずは原書を参照してみよう。

1948年版を見ると候補者(①)は
Piggsvinetとある。piggsvinetとは
ヤマアラシのこと。

https://animalia.bio/sv/malayan-porcupine

piggsvin(et)という語はノルウェー語だと
ハリネズミの意になるらしい(!)
(スウェーデン語でハリネズミはigelkott)

ヤマアラシは草食の齧歯目
ハリネズミは雑食の食虫目だそう。

更に、旧版の元になっているであろう
英語版を見てみると……

あらまPig-Swineになっている。
そのため旧版は「ぶた」になっているのだろう。

そして1968年版原書を見てみると
候補者(①)は
Stora råttan på slaskhögen
となっていて、直訳すると
「ぬかるみ(雪解け)の山の上の
大きなネズミ」といったところ。
そのため新版では
「大ねずみは?ぐちゃぐちゃのぬかるみにいるやつ」
とした。

そして①の生きものは②
大き過ぎるのか手強いのか。

(再掲です)

1948年版原書は
"Han är för stor." で
英語訳版のとおり
"He's too big"なので旧版訳は
「あいつは大きすぎる」

一方1968年版原書は
"Henne går inte att lura."で
「騙すなんて無理ゲーだろう」
といったところ。
そのため「てごわい」としたのだが。

ちなみに
訳語には反映させていないが、
1948年版原書では
【Han=彼(男性)】は大き過ぎる
となっているのに対し、
1968年版原書では
【Henne=sheの目的格】になっているので
大ネズミは女性という……!

帽子実験の生贄になるこの方は
Han=Heと描写されております


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