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建築事務所のいろいろ_働く場のデザイン

日本ではやっと「働き方改革」がされるらしいが、同時に「働く場」のデザインも変わりつつある様だ。先日、日本の「Work Mill」という雑誌の関係者が去年3月に完成したばかりのBIGニューヨーク事務所の視察に来られた。新事務所はBIGの文化、働き方の考えなどがギュッと詰まった場所なのだ。(新事務所の写真はこちら。Designboom)

一番大変だった仕事

これまで色々なプロジェクトに携わってきた。住宅、美術館、オフィスビル、サッカースタジアム、場所もサイズも色々だ。

その中で一番大変だったプロジェクト、それは去年完成したBIGの新事務所だろう。もちろん設計デザインはBIGによるもの。たまたま一つのプロジェクトが終わった区切りのいい私に、担当の指令が下された。

新築でもなくただの改装なのに何が大変だったのか?と言われそうだが、いくら飛躍中のBIGと言え、大金を叩けたわけでもなく、低コスト、タイトスケジュールに加え、BIGのショーケースともなるビアルケや200人以上の建築家たちの「家」となる新事務所に求められる完璧さ。この重圧があった。

5ヶ月の設計期間と9ヶ月の工事期間(最初、工期は半分のはずだった)中に、幾度かくじけ、一度現場のトイレで号泣し、ストレスで歯が二本欠けた。最後の追い込みの時期には、降り注ぐ担当ボスの要求にとうとう堪忍袋の尾が切れて、ボスに対してFワードを使ってしまったほど!普段礼儀正しい日本人の私がこの言葉を発したのに、さすがのボスも状況を察し、「ご、ごめん。。。」。そのボスにとってもプレッシャーのある仕事だったはず。今となっては苦いの思い出を「大変だったよね。。。」と言い合える一番気楽に話せるボスとなった。

ともあれ、工事後私は一か月の温泉三昧のバケーションで復活、ビアルケや200人の建築家たちも満足のいく新事務所が無時完成したのである。

(写真下:引っ越しを祝って乾杯の音頭をとるビアルケ)


物件探し

私がBIGsterになった2015年、事務所はマンハッタンの西側、ハドソン川に面した、巨大倉庫が事務所に改装された建物にあった。トラックが11階までエレベーターで上ってこれるような、まるで船のような建物だった。Martha Stewartや、Diller Scofidio + Renfroなどの有名事務所もあった。

ニューヨークでは地震がないせいか、こうした用途の転用が頻繁に行われている。インダストリアルな鉄枠の窓や天井の高い空間は、冬は寒く夏は暑いが、いかにもニューヨークらしい場所であった。同年に広さを求めて引っ越したが、急成長の最中その半年後にはすでに手狭になってしまい、更なる物件探しが始まった。

新事務所はブルックリンのダンボという、マンハッタンから川を隔てた昔は倉庫街だった地区にある。その建物の1フロアが新事務所だ。色々な候補の中で決めてとなった1つは、200人を超えるビッグスターをワンフロアに収容できる物件だったこと。ニューヨークでこの広さを持つ物件は多くはなく、ここは隙間なく隣接した3つの建物を昔合体したもので、床の高さや柱の形状、窓のデザインが微妙に違う、パッチワークの様な空間だ。昔は工場だったらしく、床にはネジや油が化石の様に残っていたり、のこぎり屋根がなんともいい味をだしている。フロアの真ん中は光を取り入れる中庭になっていて、まるでドーナツのような、行き止まりがなくクルクルと回遊できるスペースだ。(写真下:地鎮祭ならぬ、解体祭が盛大に行われた。)

一番大切にしたこと

プランを考える中で一番大切にしたことは
1.オープンな空間、一つの空間を共有しているという感覚
2.ラウンジや、食堂、ライブラリーといった共有スペースにバラエティをもたせ、その配置。

前回書いたように、BIGでは個室を持たず、皆が同じスペースで仕事をする。働くスタイルも色々だ。自分の席のデスクトップで仕事をする人、携帯で窓際のマンハッタンを見ながら打ち合わせをする人(BIGには固定電話が無い)、ガラスの打ち合わせ室でテレビコンフェレンスをする人、食堂で話す人、ラウンジにラップトップを持ち込んで仕事をする人、模型室で模型を作るインターン、ボードに図面やパースをいくつもピンアップしてビアルケと打ち合わせをしているチーム。

こうした様々な働く場が開放的で流動的に配置されることになった。
ガラスのミーティングルームとライブラリーを中庭に面して配置し、その外側がでデスクスペース。模型室など壁が必要な場もなるべくガラスでしきり、インターン達が孤立してしまわない様にした。ドーナツの一番外側の全ての窓際は2メートル幅ほどの空間を連続してとり、ピンアップに使えるスペースとなった。中庭でどうしても東側と西側に別れてしまう部分の動線は、思い切って幅の広い大通りの様な空間とし、通りの一面をマテリアルライブラリー、その反対側をスタディ模型の展示とした。

一番考えたのは食堂の位置。最初は天窓のある入り口から少し奥まった所を考えたが、食堂はある意味ビッグスターの素顔が垣間見れる場所。冷蔵庫やコーヒーメーカーと一緒にこれを思い切って入り口のすぐそこに配置した。もちろん、BIGになくてはならないミラーボールも食堂に設置された。
ミラーボールに加えて重要アイテムの一つは、コペンハーゲン事務所とロンドン事務所をライブで結ぶテレビ画面だ。会ったこともない同僚ともこうして手を振りあったり、少しだが大事なコミュニケーションをとることができる。

(写真下:コペンハーゲン事務所からみたニューヨーク事務所。そして現場で進行状況をビアルケに説明する私。)

あれから1年と数か月。改善を加えながらも、少しずつビッグスターの「家」となりつつあり、この先BIGがある限り、その時々の働き方に対応しながら大切に使われ続けていけばと思う。

つづく




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Bjarke Ingels Group (BIG)ニューヨーク事務所に勤務する建築家です。出世街道からは遠く離れた私だけれど、BIGをはじめ黒川紀章、スティーブンホールと建築事務所を渡り歩き、そこでの興味深く貴重な経験が私の最大の財産だと思っています。

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