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48.台湾ははじめてだった

台湾ははじめてだった。日本のほんの隣でありながら、なかなか行くチャンスがなかった。台湾には古くからの友だちがいる。といってもオランダ人である。20年以上も前にシベリアのトゥバ共和国の第2回国際ホーメイシンポジウムで出会った。彼の名はマーク。ぼくが率いていたツアーメンバーにもうひとりマークがいたので、マーク2号と呼ばれていた。いつから彼が台湾に住み始めたのか正確には知らないが、台湾人の女性と結婚して二人の子どもがいる。たぶんもう10年以上住んでいるだろう。

台湾の松山空港に到着して、出迎えてくれたマーク2号は訊いた。「おなかは空いてる?」ぼくは「もちろん」と即答。はじめての台湾の食事にわくわくしていたのだ。彼のクルマに乗って、到着したのは、お洒落なイタリアンだった。

「ここでいい?」「いいよ」

ぼくの胃袋の想定とは違っていた。まさかのパスタである。ここは原宿か、と思えるほどの内装で、日本のイタリアンを彷彿させた。マーク2号としては、ちょっと落ち着いて打ち合わせがしたかったのだろう。台湾料理の喧騒と離れたかったに違いない。

さて、ランチを済ませ、早速会場に向かった。本日の会場は、行天宮という大きなお寺の中にある図書館である。ソプラノ歌手のLin Chien-Chunさんとマーク2号、そして今回のツアーのオーガナイズを一手に引き受けてくれているピアニストのShih-Yangくんという出演者でのコンサートが企画されていた。マーク2号ことMark van Tongerenから、この日は即興ではなく、メロディーのある歌を歌って欲しいというリクエストを受けていたので、ぼくは石原裕次郎の歌とか、自分の超歌謡の持ち歌とかを用意していた。Lin Chien-Chunさんは、彼女のお父さんで、台湾アミ族の作曲家の作品や彼女の旦那さんでやはり作曲家の I-Chin Liの作品などを歌う。200名ほどの図書館横のホールは満席。ほぼ60代以上のお客様ではなかろうか。こんな年配の人中心のコンサートははじめてである。はじめての台湾のはじめてのコンサートは、ぼくにとっては意外なコンサートからはじまった。

台湾に着く前の日、代官山のUNITで、Lillies and Remainsというバンドに招かれて、激しくテルミンを演奏していたのが嘘のようだ。その前の日は、コペンハーゲンのライブハウスにいた。

なんというデコボコな日々なのか。ところでぼくはまだ台湾料理を食べていないね。


巻上公一 48



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