サイゼリヤ珍事件

 2/25.Sun.
 今日も雨が降っているので買い物に行かないと決めた母がこたつに埋まりながら「私は自由!」と叫んでいる。外に出ないと決めたとたん露骨にごきげんだ。
 私は一ヶ月くらい前からずっと行こう行こうと思って後回しにしてきた、阿佐ヶ谷の書楽跡地に新オープンした八重洲ブックセンターに行く。書楽の頃とお店の雰囲気や棚の配置や選書が変わっていなくて安心する。でも私は本がギュッと密集しているような情報量の多い場所が苦手なので、お店に入って十分足らずでそそくさと出てきた。パールセンター奥のBOOKOFFに直行する。今日の私は全財産千円マンなので新書は買えないのだが、著者の方にお金を払って買いたい、という気持ちが本当はあることをわかってほしい。
 BOOKOFFの百円コーナーとエッセイコーナーを三十分かけて吟味し、僕のマリさんの「常識のない喫茶店」というエッセイ本を買う。税込み九九〇円。全財産十円マンになった、と思いきやお財布の底から二百円を見つけたのでサイゼリヤに行く。
 途中、大谷翔平の等身大パネルとマツコ・デラックスのチビパネルが飾られた寝具屋さんの前を通った。きっと大谷翔平とマツコが寝られるデカ寝具を売っているに違いない。
 外の寒い空気と違ってぽかぽかあったかいサイゼリヤで白ワインのデカンタを飲み、脳みそがとろとろと緩み始めるのを感じながら二月二十二日の分の日記を書いていると、目の前の席で親子が言い争う声が聞こえてきた。どうやら、かなり教育熱心と見られる母親が本嫌いの息子二人に、なかなかのデカボイスで「本を読め」と説教しているらしい。
「お母さんはね、本を読んでる。『子どもに本を読ませるにはまず親が本を読め』って本に書いてあったから。でもあんたらは、ぜんっぜん本を読まないよね!」
 ただ息子二人も息子二人で「特に○○が読んでる本なんかね、あんなの本じゃないから!」とムチャクチャな理屈で詰め寄られようと、昆布のようにぐにゃぐにゃ体を揺らしながらふざけまくっている。それを見て母親はさらに怒る。一触即発、緊迫した雰囲気。
 しかし私が目を離した次の瞬間、母親が息子の発言に対して「オマエが決めることじゃない~♪」となにやら節を付けて歌いながら踊り出した。それを見た息子も一緒に踊り出す。仲良しか! 母親の方と目が合いそうになったので、慌てて手元の大学ノートに視線を落とした。
スマホを見るともう十八時。そろそろ恋人が友達と合流する頃だ。恋人は今日高校時代の友達と朝まで飲み会をするらしい。北海道の激安穴場バーで。思い出す度に羨ましさがこみ上げてくるが、この感情は高校時代の頃の友達が残っていることへの羨望なのか、それともただ単に安く美味しいお酒が飲めることへの嫉妬なのか自分でもよくわからない。
 二日分の日記を書き、小一時間かけて白ワインを飲み終えてお会計をすると、名実共に全財産十円マンになってしまったので帰りは徒歩。お茶屋さんでお使いをして帰った。

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