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2021/8/29 「密やかな結晶」にならずにすんだ世界のこと

今日は進藤実優さんという19歳のピアニストのちょっとしたピアノコンサートへ。彼女はショパンコンクールの本選出場が決まっていたり、最近開催されたピティナのコンクールで第2位になったり、まさにこれからのピアニスト。

先月、彼女のショパンコンクール予備予選の演奏をYoutubeで聴いた。結論、生演奏の方がずっとよく、繊細なピアノを弾く人ほど配信は不利だよなあとしみじみ思う。大好きなショパンのバラード1番が聞けたのと、アンコールで弾かれた難曲中の難曲、これまたショパンのエチュード10-1が見事で、ほんとコンサートに参加できて、それだけでよい日だった。
ただひとつ、冒頭の挨拶で触れられたモスクワの音楽学校に留学していたのにコロナのせいで帰国せざるをえなくなり、やむなく最終学年の授業をオンラインで受けた、というエピソードが私が想像していなかったコロナの影響で、さぞかし無念だったろうと心が痛んだ。

小川洋子の「密やかな結晶」という小説は、秘密警察に「不要」と判断されたものがどんどんと消失していく島の話だった。香水、ハーモニカ、バラと、ものがどんどんと消えていく。2020年の春はまさにそんな世界で、多くのものが「不要不急」と判断され、そして消えていた。
だけど1年経った今は、少々違う。少なくとも5年に1度のショパンコンクールは今年開催されることになり、ポーランドと日本の国境も閉じられていない。そのことをとても嬉しく思う。「密やかな結晶」のような世界にならなくてすんだことを、心からとても。


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