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36/100 マイケル・ドリス著「朝の少女」/理想と煩悩の狭間の夜

今冬になって、洋服をガンガン捨てている。気に入ったものだけを残す、と心に決めて、一度着てみてピンとこないものは思い切ってすべて捨てる。
きっかけは去年、今までの自分にしては破格の値段のアクセサリーを手に入れたこと。それは本当に悩みに悩んで、ただそれでも払うと決意して買っただけあって、いつ着けてもとても気分がいい。それを手に入れてから、しばらくつけてないものは全部捨てた。バッグもそう。気に入って手に入れたもの以外全部処分。となると、そもそも何を持つか迷うということがなくなって、時間効率もよくなった。

好きなものにだけ囲まれる生活、それはよく考えるとなぜ今まで気づかなかったんだろう?というくらい手に届く場所にあった。何かを買う時は多少高くても気に入ったものをじっくり選び、そしてそれを大切に使う。そうすることでたかが「買い物」がとても神聖な行為になる。

そんな理想の生活を阻害するのは私の煩悩。今、何より悩ましいのは、好きな香水ブランドのクリスマスコレクションを手に入れるかどうか。

5種類の香りがセットになった、とてもお得なクリスマスコロンセット。ただすべての香りが気に入るのか、というとその保証はない。それでも嗅いでみたいし、しばらくつけてから判断したいし、それをするのにこのセットはとてもお得だし。さてこれを買うのかどうか。

手に入れてから判断して、気に入らなかったらメルカリ、という手もあって。ただそれはいさぎが悪い気がする。せっかく好きなものだけを手元に残す生活に向かっているのに、それからずいぶんと逆行する。

予約するなら明日開店と同時に電話をする必要がある。

煩悩と理想の狭間で迷子になっている前日夜。

***

後味の悪い作品、というのがある。今回読んだ「朝の少女」がそれで、その後味の悪さから一生忘れない小説になるんだろう。

この小説の前半はとにかく描写が美しくて、結末を知るまではうっとりと読んだ。

「コウモリはどうして、夜が好きなの?」
母さんはぼくにたずねた。
(中略)
「それは大きいからだよ」
ぼくは答えた。
「じっと見てると、それまで見えなかったものが見えてくるんだ。夜の暗やみの中にいると、たとえ眠っていなくても夢を見ることができるんだよ。それに、みんなが眠っている間中、ずっと昼間のことを考えている人が必要でしょう。お日さまが帰ってくる時刻が近づいたら、暗やみに教えてあげなければいけないし・・・・。」
父さんはやっと目をあけると、両方のひじをついてからだを起こした。そしてうんうんとうなずきながら、こういった。
「まちがいない。やはり、この子は星の子だ」
マイケル・ドリス「朝の少女」

時々、眠れない夜がある。それは今までの私にはまったく好ましいことではなかったのだけど。ただこの文章を読んでからそんな夜が次にきても、とても心穏やかに過ごせるような、そんな気がした。
「星の子」とシンクロすることで、それはそれで素敵な時間になる、そんな心持ち。

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