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誰かの夢に泣いたことがあるか。

五十嵐カノア選手が、2017年サーフィンQS10,000 USオープンという、世界的に有名なコンテストで優勝した。この優勝がどれだけの人の「夢」だったかを、書き留めておこうと思う。

まず五十嵐カノア選手の父親、ツトムさんは日本で生まれ育った元プロサーファーで、29歳の時にカリフォルニアに移り住んだ。というのも息子を小さい時からいい波に触れさせて、一流のプロサーファーにしたいという一心が故。英語はほとんど喋れず、安定した仕事のあてがある訳でもなかったと言う。それでもいい波が立つ場所で息子を育て、一流のプロサーファーになる後押しをしたいという「夢」があった。その「夢」が、大きな決断を後押しした。

次にサーフィンには「ローカル」という概念がある。サーフィンに適したスポットは、その地に住むサーファーがゴミを拾うなどをし、快適にサーフィンができる環境を整える。そんな「ローカル」を基盤にサーフィンは成り立っている、というのがサーフィン界では常識で、プロフィールにも「どの国の出身か」にあわせて「どのビーチの出身か」が記載される徹底ぷり。

どこのローカルにとっても、自分のビーチからチャンピオンが出る、というのはすごく誇らしいことだ。そしてハンティントンビーチにとって、五十嵐カノア選手は、久しぶりに現れたスーパーサーファーだった。いつかハンティントンビーチで毎年開催される、USオープンで優勝して欲しい。それはハンティントンビーチのローカルにとっての「夢」だった。

最後にUSオープンが何十年と開催されている地で育ち、毎年この大会を間近でみていたカノア選手にとって、この大会で優勝することは、長らくの「夢」だった。
更に今シーズンのカノア選手は、好調とは言い難かった。去年は0だった一度も勝てないまま終える試合が既に4試合あった。Instagramで「また25位(一度も勝てない時の順位)だ…」と彼の珍しくネガティブなコメントを見かけた時は、胸が痛んだ。そして、そんな不調を一気に帳消しにするようなこの一大イベントで勝つということは、悪い流れを断ち切るうえでも、彼の切実な「夢」だったように思う。

そして今日、五十嵐カノア選手は決勝まで残った。一本目、9.63というほぼパーフェクトなスコアを出し、そして2本目に7.60という、ハイスコアを出した。
決勝戦をストリーミング放送で固唾を飲んで見守りながら、私は彼の父親の「夢」と、ハンティントンビーチのローカルの「夢」と、そしてカノア選手の「夢」が近づいてくるのを感じた。そして「夢」はカウントアップと共に、現実のものとなった。

サーフィンを知り、そして実際にはじめるに至ったきっかけである五十嵐カノア選手の優勝は、私にとって、本当にうれしいものだった。そして誰かの「夢」でこんなにも自分が救われるのだということを、私はアラフォーになって、初めて知った。

人は誰でも「夢」を持つ。だけど時にそれは叶うことがなく、散っていく。
それでもこうして誰かの「夢」を応援し、そしてそれが叶った時に、こんなにも心から、喜ぶことができる。


現在、彼のInstagramに寄せられるコメントは「おめでとう」に交じって、「ありがとう」がたぶんに含まれている。

"Thank you my brother for being born and raised Huntington Beach I love to see that one of our own won!!!"
(ハンティントンビーチに生まれてきて、そしてここで育ってくれてありがとう。「俺たちの勝利」をみることができて最高だ!!!)
@bdapictureco


誰かの夢に泣いたことがあるか。
胸が震えたことがあるか。

胸を張って「ある」と言えるような瞬間に立ち会えたこと。
今、心から感謝している。

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